間隔を空けて席が並べられるなど、新型コロナウイルスの感染予防対策が施されて執り行われた葬式=5月、浦添市伊奈武瀬のいなんせ会館 画像を見る

 

亡くなった人との別れの場となる「告別式」。参列者が1千人を超えることもあるなど大人数が集まる沖縄の告別式にも、新型コロナウイルス感染症が直撃した。葬儀場は感染防止の一環で座席を減らし、受け付けを簡素化するなど対策を講じる。式の在り方も小規模な「家族葬」が増え、コロナ前から進む多様化がさらに加速した。新型コロナの感染拡大に伴い、新しい生活様式の中で、葬儀や告別式にも変化の波が押し寄せている。

 

「間隔を空けて整列お願いします」「間隔を空けてお待ちください」。5月下旬、浦添市伊奈武瀬の葬儀場「いなんせ会館」で執り行われた葬儀・告別式では、「社会的距離」を取るようスタッフが繰り返し声を掛け、式場の座席も間隔を空けて並べられていた。

 

葬儀社などでつくる全日本葬祭業協同組合連合会と全日本冠婚葬祭互助協会は5月29日、連名で新型コロナウイルス感染拡大防止ガイドラインを発表した。焼香台付近に消毒液を置くことや焼香時に1メートル以上、可能なら2メートル以上の距離を取って並び、告別式を実施することなどを呼び掛けた。参列できない人のために映像配信や録画をすることも「一つの方法」と提唱した。

 

県内の葬儀社でもガイドラインで示された取り組みが既に始まっている。那覇市曙の総合葬祭那覇は受け付け担当者が手袋をした上で、飛沫(ひまつ)防止フィルム越しに対応し、記帳を代筆する。一般参列者の席は無くし、換気に取り組むなど3密空間にならないよう対策する。名嘉義明社長は「換気や消毒を徹底している。最善を尽くして別れの場を提供したい」と語った。

 

沖縄では出産祝いや入学祝い、結婚式などで親族や友人、近所の住民など多くの人が集まり祝うのが慣例だ。「最期こそ沖縄らしさが求められている」(葬儀社関係者)と“伝統的”な沖縄の告別式は今も定番だという。だが、新型コロナによって社会生活は一変、告別式も「新たな形」を求めて試行錯誤が始まっている。

 

「少しでも長く」葬儀後に火葬の要望も

 

新型コロナの感染拡大で全国に緊急事態宣言が発令される中、葬儀場は「社会生活を維持する上で必要な施設」として休業要請の対象外となった。葬儀や告別式は社会生活を進める中で避けられないからだ。実際、感染が拡大する状況下でも県内各地で告別式が行われた。一方で、家族や近親者のみで執り行う小規模な告別式が多くなるなど変化が起きていた。

 

「5~6年先のことだと思ったものが一気に訪れた」。いなんせ会館を運営するいなんせ典礼の前浜政典副社長は葬儀・告別式の変化をこう捉えた。家族葬や好きな音楽、趣味を交えた告別式など多様化は既に訪れていたが、新型コロナの影響でこれに拍車がかかったという。

 

いなんせ会館で5月下旬にあった葬儀・告別式は小規模で、受け付けも設置されなかった。式の進行に混乱はなく、予定時刻より早く来た一般参列者のため、親族の焼香中に同時並行でもう一つの焼香台で焼香をできるようにした。変えられない部分はそのままで、密集を避ける臨機応変な対応を取った。参列者の男性は「3密にならないよう早めに入れてもらった」と事情を飲み込んだ。

 

一方、遺族と故人との別れの時間はこれまで以上に大切にされる。沖縄では火葬を葬儀前に行う「前火葬」が多いが、葬儀後に行う「後火葬」の要望もあるという。後火葬なら少しでも長く故人との時間をつくれるためだ。新型コロナでさまざまな変化が求められるが、家族や参列者の悼む気持ちはこれまでと同じだ。最後の別れという、かけがえのない時を守りながら、新型コロナと共存する時代の葬儀・告別式の形が求められている。

 

人が移動し、集まることで高まる感染リスクを低減するために、葬儀や告別式の後に故人の死を知らせることも増えた。琉球新報の紙面では告別式の実施を告知する広告の中に、既に実施したことを知らせる「謹告」も多く並んだ。故人だけでなく親族の名前や関連する企業、団体の関連広告も掲載されるようになっている。
(仲村良太)

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