写真左からYOH、HIROKI、YAMATO、RYO、NAOTO。 画像を見る

新型コロナウイルスの感染拡大が収まる気配を見せない。沖縄県も独自の緊急事態宣言を2回発するなど、人々の行動は大きく制限された。その影響を受けて音楽業界もライブハウスやホールの休館が相次ぎ、多くの公演が中止に追い込まれた。そんな中でもアーティストやライブハウスなどで働く人々は、局面を打開すべく新しい表現方法を模索し続けている。沖縄県出身のアーティスト「ORANGE RANGE」も、例外ではなくその中の一組だ。

 

2月から始まった全国50公演のツアーは、2公演のみ実施したあとに新型コロナウイルスの感染拡大により中止が決定。ライブ活動に重きを置いてファンと密接なコミュニケーションを取ってきた彼らだが、その方法が取れなくなった今、新たな形で音楽を届けようと12月25日(金) 20時より、ORANGE RANGE公式YouTubeチャンネルで「ORANGE RANGE ヴィデヲ・DE・クリスマス」と銘打ち、映像コンテンツを配信することが発表された。彼らの地元沖縄市コザのライブハウスで撮影を行った意図や、この特殊な状況下の中でそれぞれ何を考えて過ごしていたのか。また来年結成20周年を迎える彼らは、周年イヤーをどのような心境で迎えるのか。メンバー全員にコロナ禍の今だからこそ思う胸の内を聞いた。
◇聞き手 野添侑麻(琉球新報Style編集部)

 

原点のライブハウスで撮影

 

―ORANGE RANGEの原点であるライブハウス7th Heaven Koza。本日こちらで配信ライブの収録を行います。なぜこのタイミングで配信ライブを開催しようと思ったんですか?

 

YOH「2020年のライブツアーは中止になってしまったけど、このままでは終わりたくなかったんです。ツアーファイナルは追加公演枠として、7th Heaven Koza(以下、7th)でのライブが決まっていたんですが、そのアナウンスもできないまま中止が決定してしまったから…せめてファイナルだけでも今できるレベルで形にできたらな、と。今回収録する曲は、初期からある『奏重鼓』と、2月に発表した新曲の『Leisure』、『靁 the Party』の3曲。それに過去に録りためていた映像なども加え、YouTubeのプログラムとして届ける選択をとりました。10代の頃よく通ったライブハウスで、元々のツアーテーマだった『原点回帰・初期衝動』を表現できる曲を収録できるということで、すごく楽しみにしていました」

 

HIROKI「ツアーが中止になって残念ではあるんですが、何かしら他で動いて形にしないといけないと思って、年内に配信ライブをしようということになりました。撮影場所が自分たちが初めて立った7thのステージということで、原点回帰という元のツアーテーマがうまくくっつきました(笑)。でも、本音を言うとライブ収録をやろうと思った一番の理由は、自分たちが衝動的に音を出してライブをやりたいからっていう気持ちが大きい」

 

―皆さんの地元・沖縄市にある7th Heaven Koza。ORANGE RANGEの歴史を語る上では欠かせないライブハウスですもんね。皆さん、この場にどんな思い出がありますか?

 

HIROKI「店長さんには学生の時からお世話になっていて、10代の思い出が詰まった場所ですね」

 

NAOTO「僕らにライブをさせてくれた場所。当時は高校生主催のライブイベントってなかなかできなかったんですが、7th はライブをやらせてくれたんですよ。僕らの活動も応援してくれて、そこに甘えさせてもらって高校時代はここでかなりの数のライブをやりました」

 

YAMATO「僕が加入する前のORANGE RANGEのライブをここで見たんですよ。それが人生で初めてライブハウスを訪れた経験でもありました。友達がステージに立っている姿は、学校とは違う顔で輝いて見えたのを覚えていますね」

 

RYO「中学3年生の時、何にもわからない状態で緊張しながらステージに立ったのを覚えています。7thには、当時の高校生バンドが集まっていて、青春時代に先輩たちの背中を見てきた場所でもありますね」

 

YOH「あの頃から20年近く経っても、またこの場所でみんなで音を出せるのはうれしいですね」

 

それぞれの自粛期間を経て

 

―新型コロナウイルスの感染拡大の影響ですべてのスケジュールが白紙になり、自粛が続いて家にいる時間も増えたかと思います。皆さんはコロナ禍に何を考え、どう過ごされていましたか?

 

YOH「音楽面以外で言えば、とにかく体がなまらないように気を付けながら過ごしています。あと、鬼滅の刃を読めたのは良かった。流行りの漫画って、自分の中では『スラムダンク』で止まっていたし…(笑)」

 

RYO「釣りを始めました。自粛期間中に『自分で食べ物が捕れる技術を身につけたい』と思い、まずは釣りから始めたんですが楽しすぎて、今は畑仕事をやってみたい気持ちが高まっています。自給自足という人間の原点に回帰しました(笑)」

 

YAMATO「たくさん本を読んでいました。今まで小説ばかり読んでいたけど、哲学や自己啓発系の本は読んだことなかったので挑戦してみたら、これがすごく良かったんですよ。今までの自分の考えが覆されて、物事に対して新しい捉え方ができるようになりました。このコロナ禍でずっと心が苦しく、気分の起伏が激しくなってしまっていたんですが、心を整えて平常心でいることの大切さを読書から学んだ気がします。この自粛期間がなかったら、読むことはなかったジャンルだと思うし、タイミングってあるんだなと思いました。出会うべくして出会った新しい趣味ですね」

 

NAOTO「ずっと家で曲作りをしていました。以前から音楽を作ることは日常的にやっていたんですが、まとまった時間ができたことで今までより細かいところまで作りこむことができたんですよ。この期間中に作った曲は今後随時発表していくので、聴く時は細部まで注目しながら聞いてほしいです。あと、個人的に新しく料理を始めたけどこっちは全くうまくいかずに挫折しました。料理はもうやらないかな(笑)」

 

RYO「あと、『マイク当番』という企画を始めたんですよ。テーマに沿って自由に歌詞を書き、曲にして配信する企画なんですが、こうやって歌詞を書く作業を日頃から続けておかないと、歌詞が書けなくなってしまうので、自分たちの作詞トレーニングも兼ねながら楽しくやっています。制作をしていると気持ちの切り替えにもなってメンタルも保てるし、今までと楽曲制作するときの頭のスイッチも違う。簡単なメロディなんですが、それに乗ってボーカル3人それぞれの個性を出して『曲作りを楽しむ』という、これこそ“原点回帰”に近い面白い取り組みでした!」

 

HIROKI「コロナ禍で多くのミュージシャンがライブ活動について模索していますが、僕らも『人を集めることで、お客さんに対して何か起こってしまったら怖いよね』ということで、ライブ活動を一旦ストップする判断をしていたんです。メンバーでも集まることができず、全員で集まったのは12月に入ってからなんですよ。久しぶりに音を出せることに素直にわくわくしています。釣りと近所のスーパーを行き来するだけの生活で、自分が何者なのか忘れかけていたところなんで(笑)。『歌うって気持ちいいなー』って、今まで当たり前だったことが、実はとても尊いものなんだと認識しました」

 

YAMATO「ライブ収録に向けて、リハーサルを合計3日間やりました。久しぶりのスタジオで歌えるのをわくわくしていたんですけど、定期的に換気タイムを挟んだり、今まで気にすることのなかったところにも気を使いながら進行しました」

 

原点回帰と、空白期間の成長と

 

―今回元々やる予定だったツアーのテーマは「原点回帰・初期衝動」でした。今回の配信ライブに改めてテーマを付けるとしたら何でしょうか?

 

YOH「届け方が違うだけで、そこまでテーマは変わっていないと思います。撮影場所の7thって僕らにとって原点だし、このツアーのテーマに背中を押されて収録・配信をやってみようと踏み切れた部分もあったので。ツアーが中止になったことに対するリベンジの気持ちも入っていますしね」

 

NAOTO「YOHの言う通り、元のテーマからはブレていないですね。演奏する新曲も10代の頃の初期衝動を思い出して作った曲なので、配信になってもテーマは変わっていません。あ、でも個人的には『若返り』っていう裏テーマがあるんですよ。原点回帰ということで、あの頃を思い出して気持ちが若返れると思ったし、思い込む気持ちって大事っていうじゃないですか。そういう曲を作れば生活にも反映されて、見た目も若くなるかなって(笑)」

 

RYO「僕は『成長』ですかね。ツアーはなくなってしまったけど、その間も僕らも普段とは違ういろんなことに取り組んできました。バンドとして止まらずに少しずつ前に進んでいることを、この配信を通して伝えられたらと思います」

 

YAMATO「なによりも『思い』を伝えたいんですよね。本来だったら来てくれるはずだった皆のわくわくした思いや、中止になったことで気持ちのやり場をどこに持っていけばいいかわからない、もやもやした僕らやお客さんの思いなど。コロナ禍になって、どこにもぶつけることができなかったけど、そんな思いを発散させて届けるのが僕なりのテーマです。配信曲は、元々ツアーでやる予定だった曲から選んではいますが、気持ちを乗せて歌うことが一番大切だと思っているので、そういった思いがこもっていれば、どんな曲でも伝えることができると思っています」

 

コロナ禍で迎える20周年に向けて

 

―来年、ORANGE RANGEは結成20周年を迎えます。コロナ禍の状況はしばらく続きそうですが、そんな中で迎える20周年をどんな一年にしたいですか。

 

HIROKI「その都度楽しいことを選択してきた20年でしたが、今年は計画を立てても、全部がひっくり返ることがあるということを知りました。だったら、目の前のことをより全力で取り組みたいと思うようになりました。もし来年ライブができるようになったら、その一本ずつを今まで以上に大切にしながらやっていきたいですね。お客さんの前で演奏できるのが本当に幸せなことだと感じています」

 

YOH「シンプルにコロナ禍とどう対峙していくかって一年になりそうですね。とくにライブはこれまでやってきた形では難しいから、参加するひとりひとりが高い意識をもって新たなガイドラインと向き合う必要があると思います。ネガティブな要素は探せばいくらでも出てくる状況ではあるけど、思考だけは止めずにいられるよう努めていきたいです」

 

YAMATO「20周年という節目を迎えることができるのは、大変貴重でありがたいことだと思っていますが、コロナ禍を経て自分の考え方が変わってきて、大事なのは数字だけじゃないなと気づきました。一番大事なことは、皆が元気でいることだと常々思います。今はライブ活動はできていませんが、楽曲制作は変わらずにできているし、これからも多くの曲を皆に届けることができると思います。コロナ禍になって、音を耳で聴いて体で感じるという音楽の楽しさの原点に改めて気づけました。今年は思うように動けない中でも、バンドとして新たなことにも取り組むことができたし、これからもそういったチャレンジャー精神を持ちながら、一歩ずつでいいので前を向いて進めていく一年にしたいと思います」

 

NAOTO「原点回帰したサウンドと、今までにない新しいメロディを乗せた曲を作ることに挑戦したいですね。一見、正反対のものに見えますが、あえて両方交えながらやっていきたいし、この自粛期間の楽曲制作に取り組めたおかげで手ごたえは掴めています。あとは、やっぱりライブをやりたいですね。コロナが落ち着いたら、この溜まったフラストレーションを出したいと思っています」

 

RYO「思うようにいかない状態が続いている時に、個人としてもバンドとしても、どう動いて定めた目標に向かっていけるか。そういった人間の強さが問われる一年になるんじゃないかなと思っています。本来なら長いツアーを経て、僕ら5人が成長して生まれ変わった姿で、より一層バンドが一つに固まって強くなるイメージをしていたので、このリベンジはいつか必ず果たしたいと思います」

 

【プロフィール】
ORANGE RANGE
沖縄出身の5人組ロックバンド。2001年に結成し、2002年にインディーズ、翌2003年にメジャーデビューを果たす。ジャンルにとらわれない自由かつ高い音楽性と、卓越したポピュラリティが話題となり、これまでに数々の名曲を送り出し続けている。
今年の2月22日より「原点回帰」「初期衝動」をテーマに、バンドスタイルでのミニマルな編成とサウンドにフォーカスしたアルバム『NAKED×REFINISHED -3mics and back sounds-』を掲げ、50公演におよぶライブハウスツアーの開催を予定していたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で48公演が中止となった為、ライブ会場で販売予定だったアルバム『NAKED×REFINISHED -3mics and back sounds-』を急遽配信アルバムとして12月25日にリリース。

 

https://orangerange.com/

 

【Info】
ORANGE RANGE ヴィデヲ・DE・クリスマス
日時:2020年12月25日(金) 20:00 START
You Tube:https://youtu.be/pFTXMJLbqbI

 

聞き手・野添侑麻(のぞえ・ゆうま)
2019年琉球新報社入社。音楽とJリーグと別府温泉を愛する。18歳から県外でロックフェス企画制作を始め、今は沖縄にて音楽と関わる日々。大好きなカルチャーを作る人たちを発信できるきっかけになれるよう日々模索中。

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