第2回 相手の口が重い時、どうやって心を開いてもらうか(斎木茜)

投稿日: 2014年06月09日 17:00 JST

世の中にフィクサーという仕事があるのを、みなさんご存じだろうか?ヤクザ、原発、風俗、富士の樹海……。そんな”危険な”場所を取材する海外メディアの水先案内人となるのがフィクサーだ。本連載は、フィクサーという職業を選んだ若き女性2人の、活躍と苦悩、そして感動の記録である。
斎木 茜(さいき あかね)1982年生まれ。明治大学日本文学科専攻。在学中に1年休学し、上海交通大学へ語学留学。2006年明治大学卒業後、語学を学ぶため渡仏。後にパリで映画製作に携わり、北京で1年滞在し映像関係、PRとして働いた後、2010年日本に帰国。写真家のプロダクションに就職後、東日本大震災をきっかけに退職。現在フリーのフィクサーとして活躍中。
瀬川 牧子(せがわ まきこ)1981年生まれ。フィクサー&ジャーナリスト。産経新聞で記者を経験した後、2009年以降、フィクサーとして働く。シンガポールの民間衛星放送・Channel News Asia、イラン国営放送 Press TV、フランスの国営放送France 24、アルジャジーラ、マグナム・フォト、米国HBO Viceなど顧客は多数。2012年9月からフランスの国際ジャーナリスト団体NGO「国境なき記者団」日本特派員として任命。「国境なき記者団」が毎年発表する自由報道度の日本ランキング調査などに関わる。

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本音を引き出すコツ

フィクサーとして福島や宮城の仮設住宅を取材する時、外国人記者たちはそこに住む人たちの落ち着いた様子に驚く。収拾の目処が立たない放射能問題、一方で風化しつつある福島第一原発事故の記憶……。本当は怒りや悲しみなど、たくさんの感情を抱えているはずなのに、みなあからさまに口に出すことはしない。それどころか、突然やってきた見ず知らずの私たちを丁寧に迎え入れ、お茶やお菓子を出してくれたり、時には手作りの小物などを帰り際に持たせてくれることもあり、私たちは毎回彼らの優しさと忍耐強さに心を打たれる。

 

その一方で、みな何を「言っても仕方がない」という考えを持っていることにも気づかされる。対応が後手後手の政府や保身しか考えない東電に対してどう思うかインタビューしても、「文句言っても仕方ないですからね」などといった、諦めのような答えが返ってくることが多い。もうちょっと個人的な見解を聞きたいのだが、インタビューを受ける人のほとんどは、外国のテレビに自分の発言が流れるのを用心して、当たり障りのないコメントしか返ってこないのだ。

 

海外のニュースでは、大事件が起きた時、興奮した口調で感情を露にしてコメントする市民がよく見受けられる。そういった発言に外国人記者も慣れているので、「あそこまで政府や東電に不当な扱いを受けたにもかかわらず、なんでみんなこんなに落ち着いて、主張をしないのだろう? ヨーロッパだったら考えられない」と、不思議そうな顔をするのを何度も見てきた。

実際、日本のことをよく知る海外ジャーナリストは、「日本人とヨーロッパ人のメンタリティーは、世界の表と裏ほど違う」と言う。本音を聞きたいならば、普段のやり方で質問しても、日本ではほとんど通用しない。

 

そうした文化的ギャップを埋めるのも、フィクサーの仕事のひとつだ。

私は外国人記者の質問を訳して取材対象者に伝える際、記者の質問の真意を汲み取るように努めている。というのも、彼らの質問をそのまま訳しても、彼らの聞きたい答えになかなか辿りつけないことがあるからだ。記者が、通り一遍のコメントではなく、感情的なコメントが欲しいということであれば私の方でその意図を理解し、日本人が受け入れやすい表現や聞き方に“意訳”して伝える。取材対象者に、記者がどんな立場に立って質問をしているのか示すのも非常に効果的だ。

「今の政府は、放射能は大丈夫と言って、メディアも政府の言いなりです。それについて記者は自分だったら信じられないし、失望と怒りを感じると言ってます。フランスの視聴者(ヨーロッパメディア全般にも言える)はインタビューで感情を聞くことに慣れているので、感情的なことも聞きたがります。多分慣れないとは思いますが、敢えて怒りだったり悲しみだったりそういった感情も含めて、今の放射能問題をどう思われますか」

このようにきちんと説明を省かなければ、「もちろん怒ってますよ。だって今回の発表は……」といったぐあいに相手も本音を語ってくれることも多い。

 

飯舘村在住の男性の特集記事

2012年、フランスの新聞「リベラシオン」の女性記者と一緒に仕事をした時のことだ。福島第一原発事故の影響で、今なお全村避難命令が出されている福島県飯舘村の取材だったのだが、最初の数日は私のスケジュールが空かず、記者はフランス語を話せる大学院生の女性を伴って、先に飯舘村に入った。

しかし後で女性記者に聞いたところによると、その大学院生は取材相手に遠慮して、記者の突っ込んだ質問をうまく通訳できなかったため、聞きたいことも深く聞けないまま取材が終わってしまったという。

私が、その後を引き継いだのだった。

 

取材相手は伊藤延由さんという当時69歳の男性だった。

伊藤さんは新潟県出身。東京でずっと仕事をした後、定年退職してから飯舘村に移り住み農業を始めた。しかし、福島第一原発事故が起き、伊藤さんの生活は一転した。政府の除染方針に疑問を持った伊藤さんは自ら専門家に連絡をとり、放射能がもたらす影響を調べ始めた。

伊藤さんは、東電との間の賠償問題にも積極的な態度を取った。東電が被害者に送った請求書類は、電話帳くらいある分厚いテキストが2冊。それらを参考に自分で書類を作成しなければならいので、普通の人ならば匙をなげたくなる。そんな東電の不誠実な対応に、伊藤さんは真正面から抗議したのだ。

取材のきっかけは、飯舘村の出身ではない伊藤さんが村のために奮闘する姿に、記者が興味を持ったことだ。彼に焦点を当て、6ページの特集記事をつくるのだと言う。

伊藤さんの活動に加えて、彼の人としての魅力にも迫る内容にしたく、私たちは伊藤さん宅に一晩寝泊まりし、時間をかけて丁寧に話を聞くつもりだった。

 

なかなかの“強敵”

取材が始まると伊藤さんは、福島第一原発事故からこれまでの出来事や、東電との裁判、放射能による汚染被害について、私たちが聞きたいことを進んで語ってくれ、取材も順調に進んだ。

しかし、伊藤さん自身のことについてインタビューしようとした時のこと。それまで饒舌だったのが嘘のように、彼の口が急に重くなったのだ。

記者(私)「プライベートでは普段何をしているんですか」

伊藤さん「いやぁ、大したことやってないよ」

記者(私)「趣味はなんですか?」

伊藤さん「無いよ」

自分のことに関して話が及ぶとつれない態度を取る伊藤さんは、なかなかの強敵だった。何度か方向を変えてアプローチを試みるのだが、どれもうまく行かない。しかも、途中でお茶を淹れに行ったり、掃除を始めたりと、忙しなく動き始めるものだから取り付く島もない。

ある程度トライをしたところで、私は記者に「伊藤さんの受け答えの態度を見るに、これ以上聞いても話してくれないと思う」と言った。日本語が分からなくても、彼女もたくさんの人にインタビューしてきたプロなので、そのことはよく分かっていた。私たちはいったん諦めて、別の話題へと移ることにした。

ただ、何しろ6ページにも及ぶ特集である。それまでの取材だけでは、伊藤さんの人となりを伝えられるストーリーを集めたとはいえなかった。

 

半歩の歩み寄り

プライベートに関しては口の重い伊藤さんだったが、時折お孫さんの書いた手紙や写真は嬉しそうに私たちに見せてくれていた。お子さんはいるはずだが、部屋には家族と住んでいる形跡は見当たらなかった。家族構成を知りたいと思った記者は、私にこっそりと質問していいと思うか聞いてきた。

記者の知りたいことを取材対象に伝えるのが私の仕事である。プロとして彼女を出来るだけサポートしたい。そこでタイミングを見計い、打ち解けた雰囲気の中で伊藤さんに言葉をかけた。

「あの、差し支えなければ、今からプライベートなことをお聞きしたいと思います。こういった人物に焦点を当てた記事では、お人柄やバックグランドを一緒に伝えることで、読者が読んで面白いと思えるような、魅力的な内容になるからです。なので、今からいくつかつっこんだ質問をさせていただきます。

慣れなくて戸惑うことがあるかもしれません。また、プライベートに踏み込み過ぎだと感じられたり、答えたくない質問もあると思います。そういう時は、私に遠慮なく言ってください。伊藤さんに気持ちよくインタビューを受けてもらえるようにするのも私の仕事です。」

すると伊藤さんは「別に構わないよ」と言って、個人的なエピソードを話してくれるようになった。家庭のことや、仕事に打ち込んだ単身赴任時代のこと。一人になって気がついた心に棲む虚しさ、複雑な環境で育った子供時代。原発事故が起きてから変わった村人たちとの人間関係、そして第三の人生として汚染問題に取り組む覚悟……。

私も経験値の低いうちは、「奥さんが見当たらないけど、彼は今独身かしら?」といった記者の質問を、「そんな不躾なこと怖くて聞けない」と思って躊躇しただろう。でも、場数を踏んでいくうちに、初対面で、しかも文化も違う人どうしの間に立つ時は、まず自分が双方の気持ちをしっかり理解し、言葉の裏にある意図や気持ちを補って訳せばうまくいくことを学んだ。

「君がいい写真を取れないのは、あと半歩の踏み込みが足りないからだ」――ロバート・キャパの有名な言葉だ。取材も同じで、相手に心を開いて本当のことを話してもらうには、その半歩の心の歩み寄りが大きくものを言う。

取材から半年後、伊藤さんの特集はリベラシオンの特別号に綺麗なイラストとともに掲載され、大きな反響を呼んだ。

 

フィクサーのバックグラウンド

最後にフィクサーのタイプについて。

私は別の職業からフィクサーに転身し(そうなった経緯はまたあとで詳しく述べる)、現在はフィクサー一本でやっているが、フィクサーにはまた別のタイプもある。それが日本で活動するジャーナリストだ。

彼らは記事を書いたり映像を撮る傍ら、海外からのリクエストがあればフィクサーもこなす。記事を読んだ海外のジャーナリストがコンタクトをしてくることもあれば、フリーでジャーナリストとしては食べていけないからフィクサーをするという人もいる。

彼らのプロ意識の高さ、知識の豊富さ、経験の豊かさにはいつも感心してしまう。話を聞くととても勉強になり、「自分ももっとがんばらなきゃ」という気持ちにさせられる。

次回からは、そんなジャーナリスト兼フィクサーの1人である瀬川牧子さんの登場だ。

 

<<若い女性が飛び込んだフィクサーという仕事… / フィクサーとは“忍びの者”である>>

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