第19回 法華経は、文学作品でもある

投稿日: 2014年11月21日 00:00 JST

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お経を聴くのは葬式の時くらい。それも意味が分からないし、お坊さん独特のリズムで読まれるので、聴いているうちにだんだんと眠くなる……。そんな人は多いだろう。
それじゃ、あまりにもったいなさすぎる!
仏教のエッセンスが詰まったお経は、意味が分かってこそ、ありがたい。世界観が十二分に味わえる。この連載は、そんな豊かなお経の世界に、あなたをいざなうものである。
これを読めば、お葬式も退屈じゃなくなる!?

著者:島田 裕巳(シマダ ヒロミ)
1953年東京都生まれ。宗教学者、作家。東京大学文学部宗教学科卒業。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。現在は東京女子大学非常勤講師。著書は、『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』『葬式は、要らない』(以上、幻冬舎新書)、『0葬』(集英社)、『比叡山延暦寺はなぜ6大宗派の開祖を生んだのか』『神道はなぜ教えがないのか』(以上、ベスト新書)、など多数。

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◎「序品」は映画の予告編のようなもの

では、『法華経』には、どういったことが書かれているのだろうか。

まず、「序品」を見ていくことにしよう。

すでに見たように、お経は基本的に「如是我聞」ではじまり、それを記した人間が、釈迦の説法をこのように聞いたという形をとる。 『法華経』の場合、説法の舞台は、マガタ国の首都、ラージャグリハ(王舎城)の郊外にある霊鷲山(りょうじゅせん)に設定されている。

そこには、出家した比丘(びく)と比丘尼(びくに)、それに在家の優婆塞(うばそく)と優婆夷(うばい)のほかに、天、龍、夜叉、阿修羅など、人間以外の存在も集っている。とにかくその数は膨大で、「序品」の最初の部分では、どういった人間や存在が集ったか、その名が延々と記されている。

釈迦は、そうした聴衆に向かって説法をはじめるわけだが、この「序品」では、原本のサンスクリット語から訳せば『偉大な説法』、漢訳では『無量義』と呼ばれる最高の経典を説いたとされるものの、その具体的な内容についてはふれられていない。そして、釈迦は、その説法のあと、瞑想に入ってしまったと記されている。

その釈迦の説法はいったいどんなものだったのだろうか。

誰だってそれが知りたくなるが、この「序品」では、内容についてはまったく説明されておらず、「方便品」以下に任された形になっている。

その点で、『法華経』の「序品」は、映画の予告編のようなものと考えた方がいい。

ただ、釈迦はただ瞑想に入ってしまっただけではなく、神秘的な能力を発揮する。

天からは花が降り注ぎ、大地が振動し、瞑想に入った釈迦の眉間からは、光が放たれて、東方にある1万8000の世界が明るく照らし出されたのだ。

その後、この釈迦が引き起こした神秘的な現象に驚いた聴衆の一人、弥勒菩薩が文殊菩薩に対して、この現象の意味について問いただしたりすることになる。

「序品」には、釈迦の教えの具体的な内容はほとんど記されていない。そこで現代の人間は物足らなさを感じるかもしれないが、『法華経』は、たんに教えを伝えるための理論的な書物ではなく、文学的な作品としての性格を併せ持っていると考えると、見方が変わってくる。

文学作品であれば、そこに込められた思想内容よりも、いかに釈迦の説法する場面を壮麗に描き出すか、描写力、表現力の方が問題になる。その点を見過ごしてしまうと、『法華経』のお経としての価値がどこにあるかも見えてこなくなってしまうのだ。

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◎「方便品」で、自らの出現の目的を語りだす釈迦

内容的には、「序品」に続く、「方便品」の方が重要だ。

方便というのは、ある目的をかなえるために、それとは異なる事柄を仮に使うことを意味するが、ここで釈迦が述べていることは、かなり驚くような事柄である。

というのも、釈迦は、自分がこの世のなかに出現した理由を語りだすからだ。

まず釈迦は、「序品」で示された瞑想状態を終わりにする。そして、釈迦の第一の弟子とされる舎利弗(シャーリプトラ)に対して語っていく。

漢訳の『法華経』では、最初に「十如是」という教えを説いたことになっているが、サンスクリット語の原本には、それに該当する箇所がなく、漢訳した鳩摩羅什が付け足したものとされている。

したがって、十如是についてはふれないが、舎利弗は釈迦に対して三度、説法をしてくれるよう要請する。

ずいぶん、しつこいやり方に思えるし、釈迦はもったいぶっているようにも感じられるが、これは一種の儀式と考えた方がいい。

請われた釈迦は、説法をはじめようとする。ところが、5000人の「増上慢」の者たちが退席してしまった。

増上慢というのは、仏典にくり返し出てくることばで、自分は正しいことを知っていると思い上がっている修行者のことをさしている。この連中は、釈迦の教えなど改めて聞くまでもないとして、退席してしまったのだ。

それに対して、釈迦は増上慢の者たちが退席するのをそのままにしていた。そのうえで、残った者たちを高く評価し、これから、自分が出現した理由を明らかにすると言い出すのだった。

多くの人間が退席した後で残った一部の人間に真実を明かしたという物語の展開は、後世にいろいろな問題を残すことにもなる。

というのも、『法華経』に説かれている事柄は、釈迦が一部の人間だけに語った特別なことであり、もっと言えば、秘密の事柄であるというイメージが広がっていったからだ。

さらにここでややこしいのは、釈迦が語った自分がこの世に出現した目的である。

釈迦は、自分が出現したのは、すべての生きとし生きる者を仏にする、成仏させることにあると言い出す。この教えは、「一仏乗」、あるいは「一乗」と呼ばれる。

釈迦が説法の対象にしているのは、増上慢たちが退席してしまったので、一部の人間たちだけだ。

ところが、釈迦は、自分の出現の目的は、すべての存在を仏にすることにあると言い出す。当然、すべての存在のなかには、増上慢も含まれる。しかし、釈迦は、彼らを引き留めようともせず、そうしたことを語っているわけだ。

その点で、釈迦の姿勢には矛盾したところがあるようにも思えるが、一番矛盾しているのは、なぜこの段階になってはじめて、釈迦は自分の出現した本当の目的を語り出したのかということである。(つづく)

 

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