東京電力19歳社員「自殺の真相」追跡 後編

投稿日: 2017年08月05日 16:00 JST

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最愛の息子の命を奪われた、拓磨さんの両親の怒りがいまも収まるどころか増すばかりなのは、A氏と東電の不誠実な対応の数々だ。

 

「拓磨の遺体が見つかり、無言の帰宅をした拓磨に『会いに来てほしい』とA氏とその上司に電話で懇願しました。拓磨のパソコンから見つかった遺言に、A氏による無視のことが書かれていたからです。しかし2人は、『移動の足がない』、『ほかに優先する用事がある』などといって来ることを拒みました。人の命より大切な用事っていったいなんでしょうか。A氏は今でも拓磨の墓前に来てくれないどころか、一度も『申し訳ない』と言ってくれません」(明さん)

 

さらに拓磨さんが自殺した2カ月後の8月に当時の大月支社長から「(芦澤さん夫妻は)署名活動などして会社に挑戦的。私の上司もお怒りだ。新盆見舞いに行く予定だったが行かない。今後いっさい関わらない」と電話で威嚇されたことがあったという。

 

両親は、拓磨さんの自殺に関する社内調査結果にも不信感を抱く。

 

「'11年7月に調査責任者のC氏やA氏らが、無視やいじめなどの事実は認められないと口頭説明に来たのです。その説明を文書化して欲しいと依頼すると、A4の紙1枚に14行だけ、『芦澤宅で説明したとおり』などと書かれた中身のないものが手渡されました」

 

明さんは無視の客観的証拠を探そうと、拓磨さんが業務で使用していたパソコンのデータ開示を求めた。だが東電はいったんは了承したものの、削除してしまったという。

 

山梨支店で管理職を務めていただけに、明さんは東電の隠ぺい体質はよく知っている。

 

「業務中の事故で誰かが死んでも、会社に都合よく理由付けをしてしまうこともありました。そういう体質があったところに、福島第一原発事故でより隠蔽体質が強くなった。不祥事や事故が起きても社内の専門部署でチェックして、都合の悪い事実は外に出さないようになったのです」

 

息子の死を無駄にしないためには裁判で争うしかないと二人は決意した。東電に籍を置く限り戦えないと考えた明さんは、'14年6月に退職。

 

'11年に労災を申請し不支給決定があったが、'14年の12月、労災不支給を取り消す行政訴訟と、A氏と東京電力を相手どった損害賠償請求裁判を甲府地裁に起こした。

 

裁判で、東電の主張の信ぴょう性が揺らぐ場面があった。

 

A氏の先輩社員B氏は損害賠償裁判の証人尋問で、「いじめの社内調査は受けた記憶がない。調査責任者の副支社長C氏のことも知らない」などと証言。だが、前出の東電の内部向けの調査報告書には、「B氏はもっと面倒見るように言ったことが認められる」と書かれていた。明さんが入手した、C氏の大学ノートにも「もっと面倒見ろとA氏を怒った」とB氏から聞き取りした結果が記されている。

 

社内調査を受けていないというB氏の証言と食い違っていたのだ。損害賠償裁判でのB氏の証言内容を聞いたC氏本人も「私はB氏にも聴取しているし、その内容をノートにメモした」と発言している。

 

芦澤さん夫妻の弁護団の一人、山際誠弁護士は、裁判の今後についてこう語る。

 

「業務で心理的負荷が発生したことが自殺につながるなどした場合の労災認定基準を厚生労働省では定めており、拓磨さんが受けていた“無視”は『弱、中、強』の『強』に当たると考えられます。こうした状況を見て、無視が不法行為と認定されれば、A氏に損害賠償請求が認められるだけなく、東京電力にも使用者責任が及ぶかも知れません。さらに東電が職場環境を調整する安全配慮義務を怠ったとなれば、そこにも責任が生まれることになるのです」

 

本誌は、A氏にコメントを求めた。A氏は「拓磨さんを無視していません」とした上で、職場に置いてきぼりにしたことや、ご両親への謝罪についてはこう答えた。

 

「たまたま作業というか仕事が重なってしまったので、置いておくというか、連絡が取れませんでした。(謝罪については)、本人が悩んでいたことに気づけなかったことは申し訳ないが、それ以外はしっかりと対応していたと思います」

 

東京電力にも取材を申し込むと、「個別の裁判に関する内容につきましては、回答を差し控えさせていただきました」(東電パワーグリッド広報)との回答だった。

 

3年に渡る裁判は8月3日に行政裁判、8日に損害賠償請求裁判が結審を迎える。

 

息子の自殺から6年。いまだに東電からの情報が出ない状況に、父親の明さんは唇をかみしめながらこう言う。

「東電は事件を風化させたがっているのかもしれませんが、拓磨が死を賭してまで訴えようとした『第二、第三の自分を作らないで欲しい』との願いを消し去ることだけはしたくありません」

 

(取材・文・撮影/桐島瞬)

 

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