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「羽生選手からのビッグプレゼントですよね。“氷上”でなく“陸上”での彼のパフォーマンスを見たことがある人なんて、ほとんどいないでしょうから。しかも、それを約9年分のプログラムで見られる。ファンは大興奮でしょう」

 

フィギュアスケート評論家の佐野稔氏は、熱を入れてこう話す。

 

5月6日、羽生結弦(25)が、日本スケート連盟の公式ツイッターを通じて3本の動画を公開した。公開後3日間で累計再生数が100万回を突破するほどの反響を呼んでいる。羽生自身も当然、新型コロナ感染拡大の影響を受けている。

 

「シーズンのクライマックスを飾るはずだった3月の世界選手権は開催中止に。また、世界各地のリンクは閉鎖されており、羽生が練習拠点としているカナダ・トロントのリンクも3月に閉ざされています」(スポーツ紙記者)

 

本来なら次シーズンに向けて新たなスタートを切る時期。

 

「フィギュア選手の練習は、氷の上にのってこそ。しかし日本のリンクも滑れない状態です。ですから、自宅で回転の練習や筋力トレーニングをしているのではないでしょうか」(前出・佐野さん)

 

そんななか、アップされたのが冒頭の動画だった。動画内での羽生の肉声は1本目頭の次のコメントのみ。

 

《フィギュアスケーターの羽生結弦です。2011年3月11日から今までの、僕とプログラムたちの道のりです》

 

正面を向きそう語りかける羽生は、黒い練習ウエア姿。場所は、スケートリンクではなく白い壁の屋内だ。そうして、自身のプログラムのなかから17曲のハイライトをメドレーにして踊り始めた。

 

「曲によって髪形を変えたり、ユヅのサービス精神が見えました。でもただ“楽しんでもらおう”というだけではない、強い思いがあったんじゃないかと思っています」

 

そう語るのはあるファン。今回の動画に感動した理由の1つが動画の“秒数”なのだという。

 

「3月11日以降のプログラムと本人も言っていますが、3本の動画を全部合わせると“311秒”になるんです。粋な心意気と、被災地への思いを感じます」(ファン)

 

 

前出の佐野さんもこう読み解く。

「“東日本大震災後も頑張った。だからもう一度頑張りましょう”というメッセージでしょう。彼のバックボーンは震災。高校1年生のときに被災して、ホームリンクが壊れ滑れなくなった。あちこちのリンクを転々としながら練習をして、大変な苦労をしています」

 

動画1曲目の『White Legend』はその当時の演目だ。

 

「震災1カ月後に出演したアイスショーで披露した演目です」

 

そう語るのはフィギュア関係者。

 

「震災で苦しむ人々を間近で見てきた羽生選手は“こんなときにスケートなんかしていていいのか”と、一時深く悩んでいました。しかし、ショーで感動して涙を流す人々を見て“スケートをやろう”という気持ちになったといいます」

 

当時のインタビューで、羽生自身もこう語っている。

 

《自分にできることはスケートだけ。スケートを通して一生懸命な姿を見せて、少しでも多くの人に勇気を与えられればいいな》

 

その後、金メダルを獲得した’14年のソチ五輪のエキシビションでも『White Legend』を披露。4年後に連覇を成し遂げた平昌五輪のエキシビションでは『Notte Stellata』を選曲。“星降る夜”という邦題のこの曲を滑ったことにも共通の思いが。

 

「被災当時に避難場所で見上げた満天の星を、羽生選手は“希望の光”のように感じたそうなんです」(前出・フィギュア関係者)

 

今回の動画には、阪神・淡路大震災の追悼や、北海道地震被災地へのエールとして滑った曲も織り込んでいる。

 

「災害を乗り越えてきた日本と自らの演技を重ねることで、新型コロナ終息への願いを込めたのでしょう」(前出・スポーツ紙記者)

 

別のフィギュア関係者は、17曲を披露した意図をこう読み解く。

 

「震災以降の9年間、五輪2連覇や世界最高得点の樹立、新しいジャンプの成功など、羽生選手は輝かしい偉業を成し遂げてきました。ですが、その一方で、ライバルに負けを喫してきたこと、ケガに悩み、プレッシャーに押しつぶされそうになったことなど、つらい時期も何度もありました。だけど彼はそのたびに復活し、世界中を感動の渦に巻き込んできた。競技人生の集大成を披露することで、見る人に“困難に立ち向かう勇気を持ってほしい”という願いを込めているのでしょう」

 

4月にJOC公式ツイッターに投稿された動画内で、羽生は新型コロナウイルスで苦しむ人たちにこんなメッセージを送っている。

 

《真っ暗闇なトンネルの中で希望の光を見いだすのはとても難しいと思います。でも、3.11のときの夜空のように、真っ暗だからこそ見える光があると信じています。どうか無理をなさらずに周りにいる方々を信じて頼ってください。そしてみなさんが心からの笑顔で語り合える日々が来ることを祈っています》

 

苦難の中でも、いつか光が見えると信じて――。その真摯な姿は、人々に勇気と希望を与え続ける。

 

「女性自身」2020年5月26日号 掲載

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