’19年5月、アジャコング(50)に勝利しWWWD王座を奪還。翌6月にはセンダイガールズ世界王座を同世代のトップランナー・橋本千紘(28)から奪取し、2冠王に。
まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで女子プロレス界を席巻していたSareee(24)に、WWEへの移籍オファーが舞い込む――。
<中編:アジャコングから流血の洗礼…Sareee語る世界進出までの試練 から続く>
プロレス界の世界的スーパースター・トリプルH(51)からのWWE移籍オファーだった。
「ただ……オファーをいただいた当初はとても迷ったというか、複雑でした」
Sareeeがこう言うのは、偽らざる心境だろう。なにしろWWEは押しも押されもせぬ世界一の団体であることは間違いないが、そのトップスターたちのステータスには、単にプロレス技術や実力だけでは立ち続けることができないといわれている。
ファンサービス、コンテンツ収録、視聴率、グッズ収益など、細目まですべてデータ化され、その査定も世界のあらゆるビジネスで最も厳しいレベルであると考えられている。日本の格闘家がしばしば口にする「勝負だけに集中できる環境」とは、ほど遠いと考えざるをえない。
「はい……自分のストロングスタイルが出せるのかどうかというのももちろんありました。しかしそれ以前に、自分が口にしてきた『日本でのトップ』を取らないまま行っていいのかな? と。日本の女子プロレスに『自分がいない』状況も作ってしまいます。ディアナに戻ったときの覚悟、後輩を育ててきた立場からすると『自分だけ行っていいのか?』と」
そんな心境でトリプルHとの会談を終えた後、Sareeeは大先輩のジャガー横田(59)に相談している。
「そのときジャガーさんは『ぜひ行ってほしい。いや、絶対に行ったほうがいい、挑戦すべきだよ』と。ジャガーさんも行きたかったけれど、ジャガーさんの時代は一部の超大型選手しか目を向けられなかったという。『だからSareeeに、私たちがつかめなかった夢を叶えてほしい』とも言われました」
そうしてSareeeは、決意が固まったのだという。
「現在、アメリカでファイトしている先輩日本人女子レスラー(ASUKA・37、紫雷イオ・30など)は、これまでほぼ接点がなく、直接お話をうかがうことはなかったんです。でも考えてみれば『世界一の女子プロレスラー』になれる大チャンスですよね。せっかくやるなら、そこまで行きたいなあと。日本にもいろんな団体がありますが、闘いのリングとしてプロレスを極めている団体が少ないのは現実です。アイドルみたいなキャピキャピした選手も華やかでいいんですが、勝負に臨む準備をしてきているのかどうか、自分はいつも疑問に思う。誰でも上がれるリングではダメなんです。センダイガールズ、ディアナ、シードリングをはじめ、いくつかの団体は受け身などの基礎をキチンと学んでデビューさせています。それが本物のプロレスだと私は思っている」