■羽生が綴った採点への怒り「審判員の裁量に完全に委ねられている」
そして7年にわたる研究生活の集大成として書き上げられたものが、「無線・慣性センサー式モーションキャプチャシステムのフィギュアスケートでの利活用に関するフィージビリティスタディ」と題された冒頭の論文だ。
羽生は研究で目指す“最終目標”について同大学の広報誌ではこう語っている。
《将来的には、選手の技術向上やAIによる自動採点など、フィギュアスケート界の発展に役立てたいです》(『CAMPUS NOW』’20年10月号)
デジタルによる採点制度の改革を志向する羽生。この動機には“秘めた真意”があった。冒頭に続く形で羽生はこう綴っている。
《全ての選手の全ての要素に対して、ガイドラインに沿った評価ができるのだろうか。(中略)特にジャンプの離氷時の評価は非常に曖昧で、審判員の裁量に完全に委ねられているように感じる。実際に、インタビュー等で審判員の判断に苦言を呈している選手もいる》
公の場でめったに不満を漏らすことのない羽生が論文で露わにした採点制度への不信感――。フィギュアスケート評論家の佐野稔さんはその現状をこう語る。
「試合をテレビで見る際、画面上部に緑や赤色で点滅するものがありますが、あれはテクニカルパネルと呼ばれる技術審判の3人が回転が足りているかなどを入念にチェックして出しています。とはいえ、ただの人間の目です。
疑わしいものは、後から技術審判がビデオで確認して、審判員に伝えて最終的な点数がつけられていきます。ビデオは何度でも繰り返し見られるのですが、カメラの方向によっては判断できない部分もあります」
’84年のサラエボ冬季五輪に出場し、現在は日本スケート連盟のナショナル審判員も務める元フィギュアスケート選手の小川勝さんも言う。
「審判員も一定のルール、基準があって選ばれていますが、個々で採点基準が違います。日本人だから不利ということではなく、どの国でも自国の審判は多少なりともいい点を出したりするものです」
実際、3月の世界選手権での“疑惑の判定”を指摘する声も。
「SPの羽生選手の4回転サルコウの出来栄え点が低いという指摘が海外の識者からは相次ぎました。女子の紀平梨花選手(18)や坂本花織選手(21)への判定が厳しすぎるという声もありました」(スポーツ紙記者)
「女性自身」2021年5月4日号 掲載