「昨日の試合で、大谷選手が右手にデッドボールを受けたときは、本当にヒヤッとしました。すぐに試合復帰できたときは、私たち市役所職員も市民の皆さんも『よかったね』と言い合って。もう、身内を応援する気持ち。どんなに世界で有名になっても、スーパーヒーローというより、やっぱり、おらほ(わが町)の大谷選手なんです」
8月30日の午後、奥州市役所4階の都市プロモーション課で、ふるさと交流係長の大越克芳さん(48)が語る。岩手県の南部に位置する奥州市は、米メジャーリーグ(MLB)エンゼルスの大谷翔平選手(27)の生まれ故郷だ。
入団4年目にして、野球の神様ベーブ・ルース以来とされる投打の“二刀流”で、幾多のメジャー記録を塗り替えようとしている大谷選手。9月に入り、シーズンも残り3週間を切ったなか、ホームラン王やMVP獲得の行方を、世界中が固唾をのんで見守っている。
現在の活躍に先立ち、奥州市が「大谷翔平選手ふるさと応援団」を結成したのが、エンゼルス入団後の18年8月。当初、農協や商工会など10団体からスタートしたが、今では180以上の団体や企業などのサポーターが参加している。
応援団会長の奥州市の小沢昌記市長(63)は、
「翔平君をダシに何かしようという気持ちは、まさしく0%。彼自身が遠いアメリカでふとした瞬間に、いいときも悪いときも、『ふるさとには支えてくれる人がいるなぁ』と安心してもらえるようにと、そんな無償の気持ちで勝手連的に応援しています」
これまでも、大谷選手のイラストの『田んぼアート』や南部鉄器の『握手像』など地元色を打ち出したものが話題になったが、たしかに手作り感覚で、とびきり華やかとは言えないかもしれない。広報役の大越さんはじめ取材で出会った人たちもそろって「岩手県人はアピール下手だから」と口にした。
ところが、見ている人は見ているものだ。
《オオタニのファンは、南カリフォルニアにとどまらず、MLBのファン層以外にもいるが、最も熱心なファンがいるのは、故郷である奥州市》
と、8月17日(現地時間)に公式ページで報じたのが、ほかでもないMLB。この記事を機に、奥州市の名は瞬時に世界中に拡散した。
ならば、そのMLBお墨付きの世界一の応援ぶりを見てみたい。早速、取材班は現地へと向かった。
「あっ、ちょっと待ってください」
インタビューに入ろうとする直前、大越さんはあわてた様子で会議室の片隅へ行ったかと思うと、やにわにネクタイを外し、ワイシャツを脱ぎ始めた。
「さあ、準備よし! 改めて、ふるさと応援団の大越と申します」
ややあって現れたのは、エンゼルスの赤いTシャツに着替えた応援団員の姿。手渡された名刺には《投打猛進 がんばれ 大谷翔平選手 奥州市出身》の文字が。
なるほど、失礼ながら、派手さはないがたしかに熱い。しかし、そんな驚きもつかの間、取材を終え市役所を出ると、さらに想像を超える「おらほの翔平君」へのふるさと愛で町中があふれていた。