「最初からすごかったんです。4歳のコだったら普通は怖がるから、ハイハイさせながらリンクに入れて、それから立たせて、という段階を踏みます。でも結弦は、スケート靴を履いて走ったままリンクに飛び込み、ワ〜ッと真ん中ぐらいまで走っていったんですよ」
羽生結弦(26)が初めてリンクに入った日のことを、こう話すのはフィギュアスケートコーチの山田真実さん(47)。山田さんは、4歳から小学2年生まで羽生を指導。羽生にとってフィギュア人生“最初の師”だ。
現在、北海道で子供たちの指導に当たっている山田さんだが、かつては仙台のリンクで教えていた。そのときスケート教室に通っていた姉と一緒に、いつも母に連れられてやってきたのが4歳の羽生だった。リンクの周りを元気に走り回る羽生を見て、山田さんがスケート教室に誘ったのだ。羽生の“初滑り”のときの様子をこう続ける。
「案の定、滑って転びましたけど、私が『大丈夫?』って駆け寄ったらケロッとした顔で立ち上がり、また走っていっちゃったんです。そういうコはいなかったので“なんだ、このコは”と驚きました」
才能の片鱗を感じさせる一方、やんちゃさには手を焼いたそうだ。
「お説教ばかりしてました(笑)。『止まりなさい!』『話を聞きなさい!』って。とにかく自由に滑りたかったんですよ、彼は。誰かに何かを言われるのが嫌だったんです。自分はスケートをこう楽しみたいという意思があったのに、私が“あれやれこれやれ”と言ってしまって。私が厳しくしすぎていたので、ご両親に“やめたい”と言ったときもあったようです」
それでもスケートを続けた羽生はメキメキと上達したという。
「運動のセンスがすごくて、たいして練習もしていないのに見てすぐに吸収してできちゃったりするんです。普通は簡単にできない1回転半ジャンプも“やってごらん”って軽い気持ちで言ったら、たった1回で成功。漫画みたいな出来事ですよ。天才です」