羽生結弦が魅せた4Aへの熱意 元コーチ語る天才的「自己陶酔力」
画像を見る その演技に、多くの人が魅了された(写真:アフロ)

 

■家族は常に寄り添ってくれていた。コロナ禍という逆境も自らの追い風に

 

絶対王者としてのメンタルの強靱さや、それを実現しようとするタフな発言は、一見、ナイーブな印象とのギャップもあり、羽生の魅力の一つとなっている。

 

山田さんは言う。

 

「“僕だって、メンタルが弱い”と言ってるそうですね。試合は誰でも緊張する。それでも体が動くように体に覚えさせるために日々練習し、自分の経験から暗示をかけたりして試合に臨む。だけど、やっぱりドキドキして足まで震えちゃって、結果が出せなかったりするのが大半。それを緊張してもやっちゃえるのは、やっぱりメンタルが強いんですよ(笑)」

 

さらに大勢の視線や声援をプレッシャーではなく、パワーに換える力もまた彼ならではだ。

 

「声援が多いほど、力が増すというか、ジャンプがより高くなるくらいの高揚する気持ちを秘めているんですね」(城田さん)

 

天才と呼ばれるがゆえに、何事も難なくこなしているように思われがちだが、彼の類いまれな表現力の背景には表には出ない日々の研さんがあると語るのは、スポーツジャーナリストの野口美惠さん。

 

「彼ほど、曲を聴き込んでいる人はいません。逆に宇野選手や高橋大輔選手は感じたままを表現するタイプですが、羽生選手の場合は、作者がどんな気持ちで作曲したのかや、1音の意味まで考えて音楽に乗せるという練習をしているんです」

 

高橋さんも、幼少期からこんな姿を目撃していた。

 

「負けん気も人一倍。仲間うちでけん玉がはやったときも、プロになるのかというほど熱中したり。加えて、切り替えの早さ。さっきまで一緒にふざけていたと思ったら、ふと気づくとユヅがいない。すると、夜間にリンクを開けてもらって、一人滑っているんです」

 

平昌五輪の直前には練習中に右足首に大けがを負うアクシデントもあったが、「270秒の奇跡」と称賛されたフリー演技もあり優勝し、羽生の目からは涙がこぼれ落ちた。フィギュアスケート評論家の佐野稔さん(66)は、

 

「平昌では3カ月も直前の試合に出られず、かなり強い痛み止めを飲みながらひそかに練習していたといいますが、当時はほとんど報じられませんでした」

 

王者の道をゆく者には、常に孤独がつきまとう。そんな羽生にいつも寄り添い、支えとなってきたのが家族の存在だった。

 

次ページ >いつも寄り添い、支えとなってきたのが家族の存在だった

【関連画像】

関連カテゴリー: