(写真・神奈川新聞社)
24時間余り前、「金メダル最有力」と目されていた体操の種目別床運動で4位に終わった白井健三は、もう開き直っていた。今大会最後の出場となる種目別跳馬。「転倒しても悔いはない。思い切り跳ぼう」
ロイター板を両足で強く蹴り、体をしならせ、跳馬に乗せた両腕を強く突っ張り、舞い上がった。高さは十分。体をひねる勢いに迷い、狂いもない。
着地をライン内に収めた瞬間、新技「伸身ユルチェンコ3回半ひねり」が初めて試合で成功を見た。「たった3、4秒の跳躍だけど僕の1年の全て」。国際体操連盟(FIG)から「シライ2」と命名されるであろう、この大技は練習でもほぼ失敗していた。それをこの大舞台でやりきった19歳は爽やかな笑みを浮かべて右拳を揺らした。
攻めたからこそ、手にした銅メダルだった。
2本目の跳躍との平均点は15.449点。世界選手権の種目別跳馬を4度制しているドラグレスク(ルーマニア)と3番手で並んだが、同点の場合はいずれかの跳躍で点数が高い選手が上位となる。大技に挑んだ1本目に限れば全体トップの15.833点。「床運動で負けた分、それ以上のものを取り返せた。すごく大きなものを乗り越えての銅メダル」と表情は達成感に満ちていた。
17歳で初めて床運動の世界選手権を制してから、白井は自らの演技を「人に見せること」に価値を見いだしている。「先輩方が攻める姿を見て自分も世界選手権に出られた。僕たちがいい演技でアピールすることで下の世代の台頭がある。そうしないとこの先、中国とか強いチームとの勝負にならない」。既に代表を背負う気概にあふれる19歳は攻めの体操を貫き、南米の地のスタンドで「シライ」の大声援を浴びた。
新技が「シライ2」と名付けられると名を冠した技は五つ目となるが、やはり「興味ない。大きい壁を乗り越えたご褒美がこの技の名前」と素っ気ない。それよりも、この五輪では大きな財産を得た。
小学校時代に「体操のうまいお兄さん」と憧れたエース内村とともに団体総合の頂点を勝ち取り、個人総合の2連覇を一番近い場所で、その目に焼き付けた。「(内村)航平さんに追い付きたいという気持ちが大きい。帰ったら6種目の練習をやる」。次世代のエースの壮大な物語は東京へと続いていく。