(写真・神奈川新聞社)
最低賃金の引き上げや貧困と経済格差の解消を求めている団体「AEQUITAS」(エキタス)が4日、東京・新宿で抗議のデモを行った。400人超(主催者発表)が参加し、ラップのリズムに乗せて「最低賃金今すぐ上げろ!」「長時間労働さっさと規制!」「生活苦しいやつは声上げろ!」などとコール。労働環境の改善を訴える声が師走の街に響いた。
この日マイクを握った介護職に就いているという平野太一さん(31)は、「長時間労働による自殺や、ブラック企業のニュースを見ていて、声を上げなければいけないと思った」と強調。「『物を言わないのが大人』という世の中で、黙っていたらこんな社会になってしまった。みんな不満を抱いてないわけじゃない。もっと声を上げていいはず」と話し、介護職場での長時間労働や、働き手不足についてスピーチした。
デモ隊は重低音を響かせるサウンドカーと共に新宿駅前と周辺の繁華街を行進。沿道では手を振ったり、スマートフォンで撮影したりする姿がみられ、若者グループが飛び入り参加する場面もあった。
エキタスが「最低賃金1,500円が実現したら何する?」という質問を単文投稿サイトのツイッターで投げかけたところ、最も多かったのは「病院に行きたい」という回答だったという。おいしいもの食べに行くとか、映画を見るといった回答ではない。
「体の調子が悪いのに病院にも行けず働き、ぎりぎりの生活をしている人が少なくないということ」と、エキタスの中心メンバーで大学3年の栗原耕平さん。「日本は貧困社会。病んでしまっている」と表情を曇らせる。
個々人の生活が成り立たなくなり、それが積み重なれば社会が成り立たなくなる。栗原さんは「政治がしっかり取り組まなければいけない。声を上げ続けることで、政府に政治課題として相対的貧困や経済格差の是正に注力してもらわなければいけない」と話した。
デモの先頭を引っ張るサウンドカーでは、介護職の平野さんのほか、1人でも入れる労働組合で執行委員長を務めている女性や、エキタスのメンバーで10年ほど非正規社員だったという女性がマイクを手にした。
師走の街に響いたスピーチを紹介する。
雇用を守り闘うことが社会の勇気と希望に
プレカリアートユニオン、執行委員長の清水直子さん
プレカリアートユニオンという誰でも1人でも加入できる労働組合の委員長の清水と申します。アリさんマークの引越社などの「ブラック企業」と闘っています。
ある組合員はいま、同じ会社で働く後輩に、遅刻しないよう毎日電話をかけています。その後輩は、(給料が少なく)生活できないため仕事を掛け持ちし、昼も夜も休まず働いている。疲れすぎて寝坊し、仕事でミスをしてクビにならないように(その組合員が後輩に)毎日電話をかけている。
その後輩の同級生たちの中には「オレオレ詐欺」をやっている人がいるという。その後輩も「いつ自分がそっちに行ってしまうか分からない」と不安を抱えて働いている。
小さい子どもがいることを心の支えにし、昼も夜もなくフラフラになりながら働いている人がいる。細い細い心の糸がいつ切れてしまうか分からない。
最低賃金が1,500円になったら、それなりに真面目な人は、オレオレ詐欺などといった犯罪に手を染めずに生きていくことができる。
このあいだ相談に来た、運送会社に転職したばかりの人は「会社の車で渋谷のスクランブル交差点に突っ込んでやる」と言っていた。
1日16時間働いても日当が7千円足らずという。精神的にも肉体的にも追い詰められている。なんとか悲惨な事故が起きることを食い止めるために、生活保護の申請を一緒にして、病院に通えるようにするのが私たちにできる精いっぱいのことだった。
最低賃金1,500円は夢物語ではない。
「働く人の権利を守れ」と言うのはぜいたくではない。特に若い世代がまともに働いて生きていくための切実で現実的な要求だ。
私たちが暮らし生きているこの日本の社会をまっとうに存続させるために絶対に必要な条件だ。私たちが働く条件を良くするということや、働く場で身を守るということ、奪われたものを取り返すということは、法律や制度を変えるだけでなく、会社に直接かけ合ったり、会社に対して実力行使したりすることでも実現できる。労働組合は本当はそのためにある。
引越会社大手の「アリさんマークの引越社」では、仕事中の荷物の破損や車両事故の弁償金を社員の給料から天引きしていた。何十万円、何百万円もの借金を背負わせて本人に弁償させていた。
いままでは仕方ないと思い諦めて我慢していたが、週刊誌の記事を見て2人の営業マンがプレカリアートユニオンに相談にきた。いま会社に弁償金の請求をしている元社員は40人ほどいるが、多くの人は退職をしてからでないと行動ができないところ、(相談にきた)彼は「自分は何も悪いことはしていない、辞める必要は無い。働き続けたままこの会社を変えます」と言って、会社に団体交渉を申し入れました。
会社は間もなく、無制限だった本人自己負担を3割にすることまでは認めた。いま自主的にどんどんお金を返さざるを得ないことになっている。勇気を持って立ち上がった彼は、いま会社の嫌がらせによって「シュレッダー業務」に追いやられている。
でも闘いは必ず勝てる。組合員だけじゃない、多くの方が応援してくれているから、毎日シュレッダーをかけながら、会社が変わるようにと闘い続けている。
ブラック企業をいまの形で温存させてしまうことは、その会社で働く人たちだけでなく、この社会で働く私たちみんなにとって、社会に公害を垂れ流すような悪影響を与える。
アリさんマークの引越社で働く彼はSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)や(動画投稿サイトの)YouTubeで闘う姿を多くの方に見てもらいながら、ボイコットキャンペーンなどで、みなさんに応援してもらえるよう、一緒に闘ってもらえるよう、今週も来週も会社に闘いを挑み続けます。
私たちは憂さ晴らしをしたいのでない。会社をつぶしたいのではなく、会社を変えたい。会社を変えるために働く仲間の闘う力を強め、あと少しの勇気と想像力を持ってもらいたいのです。
個人でやったら逮捕されたり、損害賠償を請求されることでも、労働組合には権利が認められている。例えばストライキ。電車やバスの労働組合が、給料を上げろという要求をして会社が要求を飲まないとき、ストライキをすると電車やバスが本当に止まる。会社に何億円の損害が出ようが組合や組合員に損害賠償を請求してはいけないとわざわざ法律で決まっている。
ボイコットキャンペーンも、会社の前に宣伝カーで抗議をすることも、個人であれば逮捕されたり、損害賠償を請求される。だが労働組合はやっていい。もっとやっていいと思います。
職場でつらい思いをしている皆さん。職場の労働組合が相手にしてくれなかったら、私たちのような1人でも誰でも入れる労働組合がたくさんある。私たちは皆さんに代行して問題を解決することはしない。皆さんが手にしている権利の使い方を説明し、闘い方を一緒に考え、作戦を立て問題を解決していく。私たちの目的は、皆さんが闘う力を付けること。職場で身を守り、問題解決できるようにする。そして仲間と出会う場を作る。
自分のことだけしか考えられないと、弱い。仲間がいれば強くなれる。勝手に給料から引かれた弁償金を、制服代を、まともに払われなかった残業代を、払わせることができる。
パワハラやセクハラの責任をとらせ、不当にクビにされたら撤回させることができれば、安心して働くことができる。残業代を払わせられたら、現金を手にすることができる。宝くじ売り場やパチンコ屋に行列するのではなく、自分の手で、仲間と力を合わせて、奪われた現金を取り返そう。
周辺の大人の皆さん。特に会社に立派な労働組合がある大人の皆さん。若い世代に、「働く条件は駆け引きによって変えられる」ということ、「闘えば勝ち取れる」ということを、どうか見せてあげてください。労働組合の皆さん、ストライキをしてください。
労働組合が若い世代にとって、勇気と希望になれるよう、社会の基盤である雇用を一緒に守り、闘ってください。
「やりがい」の基礎は仕事に見合った報酬
介護職の平野太一さん
はじめまして。都内で介護職をしている平野と申します。
いま私は介護職で7年ほど働き、管理職のようなこともやりながら仕事している。本当にいま介護の現場は人手不足で全然人が入ってこない。若い職員は、利用者への尊厳を意識しながらプロ意識を持ち高い専門性を有している人が多い。そういう中で、福祉の業界は待遇・給与の面で全産業に比べて約10万円も平均賃金が低いと言われている。
人が集まらないのはそうした待遇のせいもある。若い介護士たちは真面目に働いているが、やはり感情の労働。人と人との関わりの中で、仕事と分かっていてもストレスを感じる部分がある。そうしたとき真面目な職員がストレスを抱え、本当は言いたくもないようなことを口にしてしまうという場面が実際にある。
同じ職場で働く若い真面目な職員がそうした状態になってしまうのを見ていて、とてもつらい。つい先日、栗原彬さんという方が書いた文章で、とても印象に残った言葉がある。「人間の優しさというのは、人間間の虚無を見据えた上で、それをどうやって乗り越えていくか、それが人間の優しさなんだ」ということが書かれていた。
すごくいい言葉だなと思った。
介護の仕事や保育士もそうかもしれない。人と人とが関わり支えて、それが社会の支えになり基礎になる。そうやって世の中は成り立っている。そうした仕事が全産業に比べて給料が低いというのは、一体どういう状況なのか。考えてみると、やはりバランスが悪いんじゃないかと思う。いろんな仕事がある中で、みんな頑張って働いている。だけどそれに見合った給料が得られないということになると、やりがいも見いだせなくなっていく。これは当たり前のことだろう。
介護士や保育士の待遇が低いというニュースを見るたびに胸が痛くなる。自分の仕事にやりがいや誇りを感じたい。仕事に対する報酬は評価というものは、その基礎にあるはずだ。
いままでの世の中では、みんな黙り込むことが多かったと思う。こんな安い給料だけど、低い待遇だけど、我慢して生活のためにやっていかなきゃいけない。私もそうだった。
いまでも、管理職の仕事をしながらサービス残業している。職場環境も決して良くはない。でも働き続けなきゃいけない。辞めちゃいけない。そうすると文句が言えなくなっていく。歯を食いしばって、なんとかぎりぎりでやっていければいいと、それが当たり前だった。
だけど一歩踏み出して、同じ労働者という立場で、力を合わせて声を上げるということは、こうしたデモもそうだが、いろんな場面がある。もっとカジュアルにやっていきたい。
2030年には65歳以上の方が31%以上になる。超高齢社会の中で介護職に人が集まらないという状況を作っているのは一体何なのか。待遇の低さ、それに伴うやりがいの見いだせなさ、なのではないか。
外国人の技能実習生を入れるという話がある。だが、単純に外国人を呼んできて人手不足を埋めるというのはちょっと違うだろう。介護職に専門性を認め、見合った報酬を与える必要がある。そうしなければ専門性は高まっていかない。日本は超高齢社会に突入しているのだから、そこに相応のお金が使われるべきだ。
働く人が、その職場でやりがいを感じ、見合った報酬を得る。そうしてこそ仕事の質は高まっていく。最低賃金1,500円もそうだが、専門職の仕事というものをきちんと評価できる社会にしていきたい。
ありがとうございます。
いま生きているこの社会をよくしたい
エキタスの藤井久実子さん
12月になりました。皆さんとても忙しい時期だと思う。年末は嫌だという人も多いかも知れない。
私も先日までやっていた派遣の仕事先は毎日残業しないと仕事が終わらない。みんな日に日に体調を崩して派遣先の社員の人たちはどんなに体を壊しても休めないという状況だった。販売職のときは大晦日も、お正月も大きい会社は書き入れ時で、冬休みなどなかった。
でもみんな子どものころを思い出したら、12月はとても楽しいときではなかったですか? 冬休みがあって、クリスマスがあって、お正月を待っている。サンタさんからのプレゼントを楽しみしていたり。私は12月が一番好きだった。家族みんなでクリスマスツリーの飾り付けをして、ケーキを食べる。とても12月が大好きでした。
大人になって家を離れても、いつか家族が増えて、こういう楽しいときがまた来るのだろうと思っていた。でも、いつからかみんな揃うことが減り、学校からストレートに就職というレールを外れて家を出た。
それでも、夢を持ってアルバイトをした。上を目指していけばきっと道があると頑張ってアルバイトを続けました。いつの間にか自分の夢よりも、とにかく生活のこと、自分の目の前の生活を維持することだけで精いっぱいになっていた。
いま生きている社会を、より良くしていきたい。みんな幸せに暮らせるようにしていきたい。そのためには最低賃金1,500円以上は絶対必要だ。アルバイトであっても、派遣社員であっても正社員であっても、最低賃金1,500円以上で幸せな生活を送りたい。私たちはそれを目指します。