親愛なる『女性自身』の読者のみなさん。ジョン・キムです。約2年にわたって書かせていただいたこのコラムも、今回が最終回となります。私がこうして女性週刊誌の読者へ向けて毎週のようにコラムを書くというのは想像もできなかったことでしたし、大きな挑戦でもありました。
ニュースという世の中の出来事を“食材”と捉え、読者の心を豊かにする “料理”を作るために毎週コラムを書いてきました。いわば私にとって、このコラムは「幸福のレシピ」だったのです。ニュースをニュースとして捉えると、それは他人事で終わってしまう。そうではなく、背後にある生身の人々への同情と共感と愛を持ち、そのニュースがもつ人生や世界への意味を見いだし、我々が生きるための教訓や指針として捉えようとした。それが、根本にある目的でした。
韓国で生まれた私が日本の女性週刊誌に書くということは、私の中で特別な意味を持っていました。日本と韓国は隣接しているだけに様々な問題を抱えています。私は日本と韓国でそれぞれ約20年間、暮らしました。そんな私からすれば、両国の関係がなかなかうまくいかない理由は“両政府が政治的な目的で日韓関係を利用してきたこと”が大きいように思います。私は誰が正しく誰が間違っているかを決めつける、「善悪の判断」をコラムで極力しないように心がけました。国籍や宗教などに基づく善悪の判断は、潜在的に大きな危険性をはらんでいるものです。
日常の生活の中でも我々は善悪の判断をしがちですが、現実の出来事は二次元の絵画ではなく三次元の彫刻。見る角度によって、対象の見え方がまったく違ってきます。それぞれの角度から私たちは絵を描くわけですが、その描いた絵が違ったからといって対象が違うわけではないのです。つまり正解は1つではなく、人の視点の数ほどあり得るわけです。だからこそ自分の正解に固執したり、それを無理やり他人に押し付けようとしたりしてはならない。そうではなく、相手はどの角度からどういう意図で絵を描いたのか、理解しようとする「共感の姿勢」が大切なのです。
その共感のために必要になってくるのが、「対話」という行為です。対話を通じて人は各自が持っている世界観から学び合うことができ、共感を作り上げることができ、それまでこの世界になかった新しい何かを創造できるのです。
自分の考えを持つこと。自分の心で感じること。自分の言葉で語ること。自分の決断と責任で行動すること。どれもが大切なことに変わりはありません。ただそれに加えて他者の考えを理解し、他者の心に共感し、他者の言葉を傾聴し、他者の行動に拍手を送る。そして思いやりと優しさをお互いが心がけること。それができれば世界は一色ではなく、全員が自分の色を持ちながらも調和する彩り豊かな世界になっていくと思います。
毎週愛をこめて言葉を届けることができたこと。作家として、これ以上の喜びはありません。素晴らしい機会を与えてくださった前編集長の田邉浩司さんや森本隆二さんをはじめとする『女性自身』編集部のみなさんに、この場を借りて深く御礼申し上げます。そしてコラムを楽しみに読んでくださった読者のみなさんにも、感謝の気持ちを伝えさせていただきます。
女性の存在によって、人類は存在します。その女性が愛される社会、その女性を大切にする社会、その幸せが幸せだと感じる社会は、間違いなく素晴らしい社会です。2年間、本当にありがとうございました。みなさんのこれからのご健康と幸せを、心からお祈り申し上げます。