人間は、広い世界のほんの一部で生きている。
全てを知ることはできない。
世界のどこかには、自分の知らない何かを熱狂的に愛してる人がいる。研究する人がいる。
そんな人が集まると、小さなブームになる。
誰かの世界を、少しだけ覗いてみちゃおう。
それが「うさこの覗いた世界」なのだ…!
わたしは普段から部屋の間取り図を見るのが大好きだ。
「こんな部屋いいなぁ」「住んでみたいなぁ」という憧れを抱くのはもちろん、
「玄関を乗り越えなければトイレに行けない物件」や「部屋と同くらいベランダが広い物件」、「めちゃくちゃ家具を置きづらそうな三角形の物件」など不思議な間取りを見ては「こんな部屋があるんだな…!」ということを実感するだけで楽しい。
そんな間取り図マニアのわたしに、最近不動産情報店勤務の友達ができた。
「間取り図が好き」という話をすると、
「おもしろい物件何個か見つけたんで一緒に行きますか?」となんともうれしいお誘いが…!
こうしてうさこの住まない物件めぐりが始まったのである。
春、それは新生活が始まる時。
入学や入社、転勤で見知らぬ土地へ移る人も少なくないだろう。
不動産情報店にとっては一番忙しい時期で、各地で退去と入居の嵐。
部屋が空いた翌日に内見に来た人が決めて即入居…なんてことも珍しくないくらい、この時期の物件はめまぐるしく移り変わりまくっているのだ。
賃貸を紹介してもらうために訪れたのは「賃貸・売買のクラスモ なんば店」。
ここで勤務する大島さんが住まない物件めぐりの案内人だ。
「うちの店は場所柄芸人さんが来ることが多く、家賃が安い物件も人気があります。それじゃ、行ってみましょうか」
実際、自分が求める価格帯や地域以外の物件を見る経験なんてほとんどない。これは貴重な体験だぞ…!
ドキドキとワクワクを詰め込んで車に乗り込み、いざ出発である。
①広さ3帖!! 手を伸ばせば壁に届くコンパクトルーム!!
1階の韓国スナックを通り過ぎエレベーターに乗り込み、8階までのぼる。
ある部屋のドアを開けば、そこに現れたのはまるで侵入者を拒むかのごとき狭い廊下…!
体を傾けながらユニットバスとキッチンを通り過ぎると、
これまためちゃくちゃコンパクトな3帖のお部屋が現れる。
部屋のすべてを視界に収めたい心配性さんや、座ったままモノを取りたいずぼらな人にはもってこいの物件!
家賃1万5000円。この価格帯でエレベーターやユニットバス、キッチンがついている物件なんてそうそうない。
退去が決まってもすぐ入居者が決まる、大人気の物件だそうだ。
②下町全開!大家さんと濃密コミュニケーションで、「おかえり」のある毎日を!
11帖とやや広めのワンルーム。
大型犬OKや楽器相談と数々特徴はあるが一番のポイントは大家さんと密なこと。
常駐、家賃も手渡し。
“家賃=銀行振り込み”と思っていたわたしにとって、“手渡しできる”というのは衝撃の事実だった。
なぜ、あえて手渡しなのか――「月1の生存確認って感じやな(笑)」と写真NGの大家さんは語る。
「例えばお金なくて家賃が払われへんって人でも、“生活どう?”って聞けるし。どうしたら払えるか、一緒に考える。みんなちゃんと払おうとしてくれるよ。やっぱり顔見たら悪いことできないでしょ?(笑)熱が出た!って相談されたら、薬も出してあげれるし…。やっぱりね、コミュニケーションよ!」
今の世、“大家”と“借主”の関係は大変希薄だ。顔を知らない…なんてこともザラにある。
そうなると、家賃とは「ただ口座から引き落とされ消えていく金銭」くらいにしか思わないかもしれない。
でも大家さんと関わりを持つことで
「わたしはこの部屋をこの人から貸してもらっている」という人ありきのものだと思い出させてくれる。
これが「我が家」にあるべき安心感なのかもしれない…!
③手ぶらで移住!? 家具付き物件!!
最近流行っているのが「家具付き物件」。ベッドやカーテン、テーブル(場合によってはテレビ、冷蔵庫なども)があらかじめ部屋に用意されており、何も持っていかなくていいのが特徴だ。
短期だから家具を買うのもちょっと…という人や、一人暮らしを始めたいけどお金がない…という人に絶大な人気を誇る。
この物件、部屋に洗濯機を置ける場所はないが屋上に巨大コインランドリーが設置され、外へ出ればまるで病院の屋上のような物干しゾーンも。
屋上が封鎖されてしまった物件が多い中、これだけ屋上を自由に使えるところは珍しい。
洗濯ものを干しながら、自分も光合成…!そんな過ごし方もアリかもしれない。
④まるで穴蔵!? サヨナラ日光
マンションに入った瞬間、薄暗い雰囲気が漂う。
それは部屋に入っても同じだった。
外は快晴。窓もベランダもあるのにも関わらず、まるで光が差し込まない。
目の前にいる人の顔ですらちゃんと見えない。
電気がなければ、物を書くこともできないだろう。文明に心から感謝することができる物件だ。
こういった穴蔵物件は、夜の仕事をしている人に大変人気があるんだそう。
昼間寝たい人にとっては、日光はとんでもなく邪魔なものなのだ。
なるほど…。
多く人にとって「それはちょっと…」と思われてしまう条件でも誰かにとっては最高の決め手となることもある。
「家賃」「部屋のつくり」「駅から何分か」「広さはどれくらいか」……物件にはいろんな要素があるが、人によって求めるものが違うということをあらためて思い知らされた住まない物件めぐりだった。
ここで大島さんから新生活を始めるみなさんにアドバイス。
・何十件も物件を見たらあかん!
見れば見るほど、結局「何がいいのか?」ってことが分からなくなって、「一番初めの物件がよかったな…」って思い始めるんですよね。でも、その頃にはもう初めの物件はなかったり。ないものを求めることほど悲しいことはないですよ。どの物件を見ても、思い出の中の初めの物件と重ねてしまうんです。何個も何個も見るのはやめましょう!!
・払える価格帯の物件しか見たらあかん!
人は大体1万円くらい上の物件を夢見るんですよね。でもそんな時、部屋の条件で検索したらだめです。払える家賃の物件だけ見ましょう。お金払ったらいいのが出てくるのは当たり前なんです!でも払えないんだったら、「これが1万円安かったらなぁ~!」って思うだけムダです!!「満足いくものを探す」というよりは、「どれを諦めるか」だったりするんです。
て、哲学…。住処とは哲学だ…!
家はとてもパーソナルで、その人が何を大事にしているかがありありと分かるもの。
「寝るだけでいいから、家賃さえ希望通りだったらどんな物件でもいい」という人もいれば「居心地をよくしたいからこだわりたい」という人もいる。
自分の家がスタンダードなわけじゃない。世の中には、家賃150万円越えのとんでもなく高級なタワーマンションの最上階に住んでいる人もいれば、月1万円でこじんまりと暮らす人もいる。
日本の中だけでも、いろんな生き方があるんだ…。
一番身近だけど知らない「他人の世界」、ここに見たり!
協力:賃貸のクラスモ なんば店 http://namba.clasmo.jp/
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米原千賀子
ライター兼イラストレーター。へっぽこな見た目とは裏腹にシビれる鋭いツッコミで世の中を分析する。人呼んでうさこ。常に今日の夜ごはんのことを考えている食いしん坊健康オタクな一面も。webマガジンNeoLなどで連載中。
公式サイト http://yonusa.wix.com/4bunno1
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