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「『もの忘れ外来』は、認知症が不安になってきた方や、もの忘れの多さが心配になってきた方が来るところですから、ほとんどはお年寄りでした。それが最近、30〜50代の働き盛りの若い世代の来院者が目立って増えてきているのです」

 

こう語るのは、毎日100人以上が来院する、岐阜県「おくむらメモリークリニック」の「もの忘れ外来」で、これまでに10万人以上の脳を検診してきた院長の奥村歩先生。その“異変”に気付いたのは5年ほど前のことだった。もの忘れがひどくなったり、判断能力が落ちたりして、家事や仕事に支障をきたすほどに……。口々に症状を訴え、自分は若年性認知症ではないかと心配する患者たち。

 

「しかし私が診断した結果、それらはアルツハイマー病などの認知症の症状ではありませんでした。30〜50代での認知症の発症は、そんなに頻発するものではありません」(奥村先生・以下同)

 

だが、診療を続けていくと、彼らにはある共通点があったのだ。

 

「患者さんたちの多くが、スマートフォン、パソコン、タブレットなどのIT機器を絶えず使用しているような生活を送っていました。またMRIなどで調べたところ、前頭前野がフリーズした状態になっている患者さんも多かったのです」

 

前頭前野は、思考・運動・創造などをつかさどる、いわば脳全体の司令塔だ。

 

「脳に入ってくるさまざまな情報は、前頭前野で処理されます。この部分がフリーズしてしまったのは、過剰な情報のため脳がオーバーワークで疲弊した状態“脳過労”になったからなのです」

 

体が疲れすぎたら過労になるのと同じで、脳も限度を超えて酷使すると過労となる。すると思考力や判断力が低下したり、集中しにくくなったり、もの忘れが増えたりするというのだ。

 

「前頭前野内で情報処理をする際には、大きく分けて次の3つの機能があります。1.浅く考える機能(ワーキングメモリー)、2.深く考える機能(前頭前野の熟考機能)、3.ぼんやりと考える機能(デフォルトモード・ネットワーク)です。私たちが考えたり判断したりする際には、1の浅く考える機能と、2の深く考える機能をバランスよく使わなければいけません。しかし先ほど述べたスマホなどのIT機器のヘビーユーザーたちは、それが非常にバランスが悪い状態にある人が多いのです」

 

なぜスマホを過度に使用すると、脳過労になったり、思考のバランスが悪い状態に陥ったりするのか?

 

「毎日何時間もネットサーフィンをしていたり、YouTubeを見続けたり、ネットゲームやネットショッピングにハマっていたりすると、たくさんの情報が脳に流れ込みます。しかしこうした生活をしている人は残念ながら、脳に流れ込んできた情報をため込むだけため込んで、役立てていない傾向も目立ちます。要するにインプットばかり多くて、ろくにアウトプットしていない状態なので、これでは脳にゴミをため込んでいるようなものです。いざ必要な情報があっても、雑然としすぎているために、見つけることができず、『思い出せない』ということになります。これは脳のコンディションとしては、とても不健康な状態です」

 

近年では、スマホ依存度が高い人が急激に増えており、それに比例するように、30〜50代で、もの忘れ症状を訴える人も増えているのだ。奥村先生はこの状況を非常に憂慮しており、「スマホ認知症」という言葉を提唱するようになった。

 

「大事なのは、スマホなどから放出される大量の情報に流されるのではなく、自分でコントロールできるようになることです。情報の出入りを自分で意識的にコントロールし、自分の健康を守る必要があります」

 

日常生活でできる具体的な方法とはーー。そこで、奥村先生がスマホ認知症を防ぐ習慣を教えてくれた。

 

【1】デジタル・デトックスを試みる

 

「いつもスマホがそばにないと落ち着かない人であれば、せめてベッドには持ち込まないようにしてみましょう。毎日スマホ情報をチェックしないと気が済まない人であれば、週末の1日だけ『スマホ断ち』を心がけましょう。食事中は使わない、通勤電車では使わない、などでもいいのです。できそうなところから、スマホを手放してみて、少しずつ『離れている時間』を増やしていきましょう」

 

【2】「すぐに検索」をやめる

 

「漢字や有名人の名前が思い出せないとき、皆さんはどうしていますか?すぐにスマホやパソコンで検索してしまう人も多いのではないでしょうか。しかし、そんなに依存していては“思い出す力”が落ちてしまい、脳は老化するいっぽうです。私は、ネットで検索する前に1分ほど自分の頭で考えることを心がけています」

 

【3】ネットで調べ物をしたときは、手書きでメモをとる

 

「自分で情報をまとめるというような、アウトプットを目的としたインプット(情報収集)であれば、脳の活性化にも有効です。ネットで調べ物をするときは、手書きでメモをとりましょう。そのひと手間を加えるだけで、脳にもたらす刺激はぐっと大きくなります」

 

【4】1日5分、ぼんやりする時間を持つ

 

「デフォルトモード・ネットワーク=ぼんやりと考える機能は、私たちの脳の健康を維持するために欠かせないものです。この機能は人間だけが持っているもので、『自分らしさとは何か』『明日自身が進歩するためにはどうしたらいいのか』など、人間の本質にかかわってきます。ぼんやりする時間は、無駄な時間ではなく、とても貴重な時間です」

 

どれもいまから始められるものばかり。ぜひ実践してスマホ認知症から脳を守ろう!

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