来年4月に税率の2%アップが予定されている消費増税。ところが――。
伊勢志摩G7サミットで、安倍晋三首相(61)は、現在の世界経済を「リーマンショック前に似ている」と騒ぎ立てた。だが、ドイツのメルケル首相や英国のキャメロン首相は、安倍首相のこの見方をきっぱり否定。それでも安倍首相は、サミット後の会見で「リーマンショック」という言葉を7回も繰り返して“世界経済のリスク”を強調。2度目となる消費増税の“再延期”を決めた。
消費税が2%上がることによる税収増は、約4兆円。これを財源に、安倍政権では保育士の給与アップを含む待機児童対策など、さまざまな施策が予定されてきた。増税延期となれば、代わりの財源のメドはついておらず、見送られることになる可能性が高い。年金問題への悪影響を指摘するのは、経済評論家の小黒一正さん。
「あまり知られていませんが、民主党政権時代に成立し、’14年に施行された年金機能強化法によって、国民年金の受給資格者が増えるはずだったのです。現状、国民年金では、保険料の納付期間が25年以上ないと、65歳になっても年金はもらえませんよね。これが“消費税10%”を条件にして、来年4月からは受給資格期間が10年に短縮される予定だったのです。もし消費増税が再延期されれば、もちろんこの受給資格者の拡大も先送りされることになります」
現在、無年金老人は約40万人と推定されている。そのうち半数近くは、25年には及ばないものの、10年以上、国民年金保険料を払ってきた人たちだと言われる。予定どおり消費税率がアップすれば、この約20万人が国民年金を受け取れるようになるはずだった。「増税延期のツケは計り知れない」と厳しい口調で言うのは、金融アナリストの久保田博幸さん。
「現在、日本の借金は1千兆円あります。それに対して、国民が持つ預金、証券などの金融資産は1千300兆円ほどです。少し乱暴な言い方をすれば、国全体でまだ300兆円の黒字なんです」
しかし、それも風前の灯だと指摘する。
「日本では、年に30~40兆円の赤字国債を発行しているわけですから、あと10年もすれば国全体で赤字状態に突入するわけです。そうなると国債は暴落し、いよいよ財政危機に陥ります。公務員の給料の遅配や、学校や警察の運営もままならなくなって、ギリシャで起こった経済危機が、日本にも訪れてしまうのです。消費増税を延期すれば、国民は得をしたと思うかもしれませんが、日本の未来に対し、取り返しのつかない事態を招く可能性があることを肝に銘じるべきです」
口を開けば「国益」と唱える安倍首相。本当に考えているのは、国の未来か、目先の参院選の勝利か――。