瀬戸内寂聴さんの青空説法、みちのく天台寺には数千人が集まった。法話終了後、境内のあちこちから相談をお願いする手が上がった。

 

46歳女性 実は今、すごく好きな人がいるんです。私が強く相手を思っているとき、相手が同じように私を思っていてくれると思うときは幸せなんですが。ふっと、自分の気持ちが相手にとってどうなのか……、相手にも家庭の事情がありますし、迷惑なときもあるんじゃないかとか、ああだこうだと悩むんです。こんなふうに自分の気持ちが迷うときって、どんな行動をとればいいのかなと……。

 

寂聴 まだそんなに若いのに偉いですね。人を好きになったときにそういうことを考えて悩むのが、哲学の根本なんですよ。人間の愛というのは、誰かを愛しているときは、もうその人のことばかり思っているんです。これを仏教では「渇愛」といいます。男と女のセックスを伴った愛のことですね。渇愛の場合は「相手のことを思っています」というのはウソです。自分が相手を好きだから、その分だけ相手から満足させてほしいのです。私の愛にももっとお返しが欲しい、というのが渇愛なのです。そこにあなたは気がついたということはすごいです。もうお坊さんみたいに偉い(会場・爆笑)。お幾つですか?

 

46歳女性 46歳です。

 

寂聴 46歳になってそこまで考えるような相手に出会えたのね。それって、素晴らしいことですよ。

 

46歳女性 はい、そうですね。でも迷うときって、自分の気持ちのまま素直に行動したほうがいいのか、やっぱりちょっととどまったほうがいいのか、そこのところでいつも迷ってしまって……。

 

寂聴 私はそういうときに、いつも自分の気持ちのままに行動してきました。それでこんなになったんですけど(爆笑)。自分の気持ちのままに生きるというのは、実はとってもたいへんなことなんです。私の経験からいいますと、あなたの場合はちょっと控えたほうがいい。私のまねをしないほうがいい(笑)。

 

46歳女性 じゃあ、じっくり考えて、納得してから行動した方がいいということですね。

 

寂聴 情熱に任せてカーッと突っ走ると、だいたい後で後悔します。私は情熱に任せて走っても、後悔しない性格なんです。でもこれはあまり人に勧められない。あなたの相手の方にも、なにか家庭の事情があるのでしょう?たとえば、奥さんがいるとか。

 

46歳女性 ……はい。

 

寂聴 でしたらね、もっと穏やかに過ごしてください(笑)。

 

46歳女性 はい、わかりました。穏やかに過ごせるようにしていきたいと思います。ありがとうございます(境内に拍手が)。

 

寂聴 この拍手はみんなが、今のあなたの選択に賛成して手をたたいてくれているのよ、あなたのために(大拍手)。

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