image世界一貧しい大統領の愛称で世界中の人に愛されている、南米の元ウルグアイ第40代大統領のホセ・ムヒカ氏が4月5日~12日の日程で初来日。彼の人生を綴った『世界でいちばん貧しい大統領』(角川文庫)の発売を機に、出版社の招聘をうけた。そんななか4月6日に都内で会見が行われた。言葉の重みが話題を呼んだ会見を、前編に続いて紹介したい。

 

――ムヒカ氏のユニークなリーダーシップで。リーダーとして大切にしていることは? リーダーとしてみんなを動かしていくのにどういう心配りをしていますか?

 

友人の皆さんに言いたいと思いますが、私たちは多くの矛盾をはらんでいる時代に生きています。これほど矛盾を抱えた時代は人類の中でもなかったのではないでしょうか。現在、私たちは多くの富を抱え科学は発展し医術も進歩している時代に生きています。こういった時代にあり私たちがしなければならない大切な問題は、「では私たちは今、幸せに生きているのか?」。もちろん、一つの側面では非常に素晴らしい効果がもたらされました。たとえば、150年前に比べると私たちの寿命は、40年長くなっています。一方、私たちは軍事費に毎分200万ドルを使っています。

 

そうした中、人類の半分の人が持つに等しい富を、80~100人の人が持っている。つまり一番豊かな80~100人の人が持つ富と、人類半分の持つ富が同じだというこういう時代にあります。ですから、みんなが生きられるリソースは、私たちは持っています。富の不均衡、あるいは大きな格差を生むのをつくってしまった世界的、社会的ルールがあります。私は若い人たちには、こうした愚かな間違いを繰り返さないで欲しいと思います。

 

私たちにとり、命ほど大切なものはありません。それは生をもったすべての人の人生が大切ということです。世界について考えることも、人生について考えることも、あるいは貿易、仕事について考えるときも、「どうやったら幸せになるか」から考えなければならない。人生が重荷になるような、苦悩に満ちた人生ではないような人生にしなければならない。若者たちが目指してほしい世界は、「小さな世界」です。鳥が、鳥というのは毎朝さえずって目を覚ましますが、毎朝、起きたときに喜びでさえずって目が覚ませる世界、毎朝喜びが湧きあがる世界を、若い人には目指してほしい。

 

誤解しないで欲しいのは、それは、「貧しく生きるべきだ」「貧乏になるべきだ」「修道士のように厳格な生活をしなければならない」と言っているわけではないので、その辺は誤解しないでください。私が言いたいのは、富に執着するあまり、富を求めるあまり絶望にかられて生きてほしくないということです。人間にとり、人生にとり、ささいなことでも非常に大切なことというのがあると思います。たとえば、愛情を育むこと、子どもを育てること、友人を持つ、本当に大切なことはあると思います。そのためにこそ人生を使ってほしいと思います。生きていること自体、奇跡だと思います。

 

この私たちの生きている世界が、天国になるのも地獄になるのも私たち次第です。もし、幸福を目指すなら、この生きている世で幸福にならなければいけないと思います。エゴが支配するのではなくエゴを捨てたもっと健康的な世界ができるんじゃないかなと思うんです。全ての動物と同じように誰もがエゴイズムを持っています。それは人間が自分の命のために、生活のために戦わなければならないからです。同時に人間は群れなしでは、一人では、生きることはできません。社会が必要です。一人で生きることはできません。そういうことを意識化すること、それを文化とすることは非常に大切です。そういった文化、愛情が育まれるような、正しく生きられる文化を、私たちは醸成しなければならないと思います。

 

例えば自分のエゴ満足させるために他者を破壊しなければいけないような文化であってはいけない。常に他者と競って破壊して自分のエゴを満足させるような文化ではあってはいけない。ガンジーは非常に素晴らしい革命家で、武器を持たずしてイギリスに勝利を収めました。そのとき、ガンジーがこういう言葉を残しています。「もし国民、みんなが一緒になり生きられる学習をしなければ、やはり復讐しあってしまう。奪い合ってしまう、だからこそ、教育をしなければならないんだ」と言っていました。逆にみんながチームとしてチームの一員として協力できるような教育をすれば、その中で相乗効果が生まれて、今存在するものの価値が、富が増えていく。奪いあうのではなく一緒に協力し高め合えば相乗効果を得られると言っています。

 

たしかにエゴイズムは競争を助長しましたし、科学的発展や資本をもたらしました。でも危険なくらい野心を生みました。その野心は、忠実に実現しようとすればみんなを破壊してしまいます。さっきいったように、人生より価値のあるものはありません。こちらにいる日本人の方々、ある意味で、人類がどのように進歩できるのかというのを、日本人はいい形で模範となり示していると思います。私たちは、この現代にあって、人間同士国民同士の戦争や征服を終わらせる義務があると思います。

 

もちろん簡単ではありません。でもこれは世界の若者が達成しなければならない大義でもあります。大変でもあります。そのためには思考錯誤も必要でしょう。もちろん間違いも思考錯誤もありますが、それがテロのような行為になってはいけません。

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――ウルグアイ、マリファナが合法化され、ノーベル平和賞の理由の一つにあげられたと聞きましたが。

 

私たちがこの政策で目指したのは、マリファナを合法化するということではなく、「管理」するという考えかたから出発した政策です。マリファナの取引はすでに存在していました。消費者もすでにおりました。実際にすでに消費者が存在する中で、全面禁止したら、彼らは犯罪集団の手にかかってしまいます。もちろん私たちはマリファナを含め、ドラッグを賛成しているわけではありません。ただ闇の取引がおこなわれていることは見据えなければならないと思いました。そこでマリファナを管理するためのメカニズムを作り上げました。メカニズムをつくることで、どういう人が消費しているのか消費者を識別できるようになりました。同時に非合法な組織も排除することができました。

 

もしある消費者が過剰な消費で中毒になっていたら、「健康問題」として対処する。わかりやすく言えば、もし私が1日2杯のウィスキーを飲むとします。でも毎日1瓶あけてしまったら、それは中毒でケアが必要になってきます。そういう形で、マリファナが非合法で目に見えない形で行われていたら、それに対してケアしたり、手を差し伸べたりすることはできません。それにもう一つ、特に若者に「これをするな」と禁止すると、さらに魅力的になってしまいます。若者というのは、“禁止”されているものに魅かれる傾向があります。経験も少ないので、頭で十分に思考もできず、カンタンに犯罪集団につかまってしまいます。私たちは、やすやすと犯罪集団に渡してはいけないと思います。なぜなら麻薬そのものよりも、麻薬を取引する集団の方がもっと悪いからです。麻薬中毒、麻薬から抜け出すことはできても、一度組織につかまってしまうと抜け出すことはできません。

 

――ムヒカさん、世界でとりわけ日本人でムヒカさんに興味を持つ人が増えています。それをご自分でどうしてだと思われますか?

 

私の方でも明確な答えは持ちあわせてはいません。でも私の方で、「こうじゃないのかな」ということを答えてみたいと思います。あっているかどうかはわかりません。私がさまざまな場で提言してきた考え方というのは、その考え方がひょっとしたら、日本の昔から伝統的に引き継がれてきた文化の根底と通じるものがあるのではないかと思います。ですから、私のメッセージが日本の方々に訴えるのかなと思います。

 

おそらく日本の文化は、私が訴えていることと共通しているのだと思います。日本の古い文化、良き文化というものが西洋化された文化により埋葬されてしまっていて、今、見えなくなってしまっている状態なんじゃないかなと私は思います。それはもちろん、私のメッセージに注目しているというよりも、古い日本の文化の底流に流れている。そこが訴える要因なのではないかと思います。

 

 

一つ一つ言葉を力強く選びながら、会場の記者に向けてときに、にこやかな笑顔とともに、ときに身振り手振り加えて話をするホセ氏。熱く語りかけると同時に、彼はじっと世界を深いまなざしを向け続けているようだった。目の奥にある強い胆力とともに圧倒的な存在感がにじみ溢れていた。

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