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((C)撮影/加藤順子)

8月31日、東京都庁の会見場に詰めかけた報道陣の無数のフラッシュを浴びながら、小池百合子東京都知事(62)は、築地から豊洲新市場への移転について、有害物質による汚染の地下水モニタリング結果が出る’17年1月以降までは延期することを、初めて発表した。市場移転問題に詳しいジャーナリストの加藤順子さん(42)が話す。

 

「就任したばかりの小池都知事が、最初に手をつけたのがこの市場の移転問題です。規定路線を受け入れてそのまま11月7日に開場してしまうのか、それとも延期するのかの判断は、最初の試金石。以前は、著書などで《移転反対》を唱えていた都知事ですが、就任時は新市場の建設はほとんど終わっていた。移転中止をすれば、総費用(5千800億円あまり)以上の計り知れない損失も出る。一方、このまま移転したのでは混乱やリスクが大きくなるという読みがあるのでしょう。実際に『当面の延期』は現実的な選択をしたという印象です」

 

都知事は「延期」の理由について次の3つを挙げた。

(1)新市場の安全性の問題

(2)巨額で不透明な費用

(3)情報公開の不足

 

小池都知事は7月に行われた東京都知事選挙で「都民ファースト(都民を第一に考える都政)」を掲げて圧勝した。そのマニフェストがすぐに実行されたかのように見えるが、市場関係者の間では”人気取り”と批難する声もある。築地市場に約600ある仲卸業のひとつ「小峰屋」の和知幹夫さん(72)は、次のように眉をひそめる。

 

「東京都の担当の役人たちはことごとくいい加減で、信用できない。たとえば設計ミス。我々マグロ業者は、大物のマグロとなると1メートル以上の包丁でさばくのですが、新市場の各店に割り当てられたスペースは、幅1.5メートルしかありません。これでは”職人の仕事”にならないでしょう。だから、土壌汚染問題については、私ら築地市場の有志会で独自調査しました。今年6月の都の発表では、”発がん性物質”ベンゼンの量は、豊洲新市場の建物内では、国の安全基準値の6割程度(=安全)ということでした。しかし都は、地下水観測用の井戸のうち、『深刻な汚染が発覚した300区画以上』を除外して、観測結果を出していたことがわかったんです」

 

”東京の台所”といわれる築地市場が開設したのは、1935年のこと。建物の老朽化が指摘され、豊洲の移転が決定したのは、’01年だった。

 

「この豊洲の土地は、東京ガスから買い上げたもので工場跡地。そのため、発がん性物質のベンゼン、シアン化合物などの汚染が次々に表面化していきました。都は対策として、地表から2メートルまでの土壌の入れ換えなどを施しましたが、それより深いところの土は手つかず。”臭いものに蓋をした”と言われても仕方がないでしょう。そしてこの6月、新市場の建物内の空気中で揮発したベンゼンが観測された、と都が公表しました」(加藤さん)

 

築地市場で仲卸・小売業を営む30代の男性は、苦しい事情を吐露する。

 

「ウチは、いざ『移転』の日が決定してしまえば、それに従わざるを得ないという苦しい立場です。11月の移転はとりあえず回避したので、年末年始のすでに予約をいただいているお得意さんのところには、築地から魚を出せる。でも、いざ移転したとき、汚染がありながらも『安全ですよ』と嘘をつくことは、正直できないと思っています。将来は自分の子どもも、跡継ぎとして市場で働いてほしいと思っていますから、信頼できる調査をしてほしい」

 

小池都知事は、今回の「延期」決定に伴い、専門家らによる「市場問題プロジェクトチーム」(=PT)の設置を発表した。移転の実施時期などに関しては、地下水モニタリングの結果やPTの精査を「まずは待つ」と語るにとどめている。誰をも納得させる調査結果を期待しつつ、”都民ファースト”の判断に注目が集まる。

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