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年金の支給額が引き下げられるなかで、老後を支える役割が増している退職金。ところが、退職金の平均支給額が、大企業の場合、10年間で500万円以上も減少している。『退職金貧乏』(祥伝社新書)の著者で、久留米大学の塚崎公義教授が解説する。

 

「バブル崩壊後、不況に陥っていた20年ほど前に、日本の会社の体質が大きく変わりました。それまで“従業員の共同体”だった会社が、欧米のように“株主のもの”というグローバルスタンダードになっていったのです。つまり会社の利益は従業員へ分配されるより、株主への配当が重視されるようになった。結果として、従業員の長期雇用や、退職後の生計を支える目的で、当たり前のように定着していた退職金制度も、その額も、見直されるようになりました」(塚崎教授)

 

グローバル化により、勤続年数で給料が上がっていく賃金制度が見直され、成果主義が導入された。退職金についても、その成果主義が浸透しているという。老後の暮らしを大きく左右する退職金。その受け取り方は会社によっても違うがーー。

 

「“まとめて一時金としてもらう”“分割して年金方式で受け取る”“一時金と年金の併用でもらう”の3通りから選べることが多いので、どのようにして受け取ると有利なのか知っておきましょう」

 

こう語るのは、ファイナンシャルプランナーで「生活設計塾クルー」の取締役・深田晶恵さん。退職金2,000万円を《一時金》とした場合と、2%で運用される《年金》として10年間で受け取る場合では、どんな違いがあるのだろう? 退職金2,000万円を《一時金》で受け取り、64歳まで再雇用により働き、65歳から公的年金を受け取った場合と、退職金2,000万円を期間10年の《年金(運用利率2%)》で受け取り、64歳まで再雇用により働き、65歳から公的年金を受け取った場合を試算した深田さんが解説する。

 

「税金を引く前の額面収入では《年金》のほうが多いのですが、所得税や住民税、国民健康保険料や介護保険料も高くなります。《一時金》だと、この場合、非課税枠の範囲内で、所得税と住民税はかかりません。結果、手取り収入では130万円も、《一時金》で受け取るほうがお得ということになります」(深田さん)

 

試算はあくまで一例で、企業年金の運用率、年金額、住んでいる自治体の社会保険料率によって変わってくる。

 

「それでも、社会保険料が多くの自治体で毎年のように引き上げられている現状、《年金》の額が多くなるほど、税金と社会保険料の負担が重くなり、《一時金》のほうが有利になる傾向です」(深田さん)

 

そして深田さんは、退職金を受け取った夫を見守る妻にアドバイスを送る。

 

「《一時金》にした場合、無駄遣いには注意が必要です。多額の出費をしてしまい、老後資金を大きく減らしてしまう人が少なくありません。定年後の旅行、子どもの結婚資金や住宅購入資金の援助などは、老後の生活に影響がない程度にしましょう。一方、《年金》には定期的な安定収入になるというメリットがあります。しかし、終身年金でない場合、70歳ないしは75歳で公的年金だけになり、その後、年収収支が大幅に赤字になることも。会社が運用する『確定給付年金』の場合は、その会社の業績によって《年金》が減額されることもあるので注意が必要です」(深田さん)

 

さらに深田さんが続ける。

 

「退職金を使って、住宅ローンの残りを返済してしまおうと考える人も多いですよね。でも、たとえば退職金が2,000万円なのに、住宅ローンの残高1,700万円を一括返済してしまうと、老後資金は300万円しか残りません。一方で、団体信用生命保険に加入していることで“死ねばローンもゼロ。慌てて返済しなくても……”と考える人もいますが、死亡する時期は誰にもわかりません。“長生きリスク”に備えるためにも、退職金の使い方は家族でよく話し合って決めるのがいいでしょう」(深田さん)

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