トランプ大統領の主要な支持層と言われる、白人貧困層。「ヒルビリー」とも言われる彼らの実態について書かれた本が、アメリカで売れ続けています。その邦訳版の刊行にさきがけ、本文の一部を少しずつ紹介していきます。
私の地元の知り合いたちも、主要なメディアがオバマについてどのような報道をしているか、よく知っている。ただ、彼らはそれを信じないのである。アメリカの有権者のうち、メディアが「とても信頼できる」と考えているのは、全体の6パーセントにすぎない。多くの国民は、アメリカ民主主義の砦であるはずの報道の自由を、たわごとにすぎないと考えている。
報道機関はほとんど信用されておらず、インターネットの世界を席巻する陰謀論については何のチェックも働かない。「バラク・オバマは私たちの国を破壊しようとしている海外からの侵略者だ」「メディアの報道は嘘ばかり」「白人労働者の多くは、アメリカに関する最悪のシナリオを信じている」……。
以下に、私が友人や親類から受け取ったメールの一部を公開しよう。
●9.11同時多発テロ事件から10年目に、テロに関する“未解決の疑問”がテーマのドキュメンタリー番組が制作された。ラジオ番組のホスト役を務め、右翼として知られるアレックス・ジョーンズはその番組のなかで、あの惨劇の裏にはアメリカ政府の関与があったことを示唆した。
●オバマが推進する医療保険制度改革「オバマケア」のもとでは、患者の体内にマイクロチップを埋め込むことを強制しているという内容のチェーンメールが出回った。この話には宗教的な含みがあるため、波紋はさらに広がった。聖書には、終末が訪れたときに「獣の刻印」が背教の証として使われると記されている。多くの人が、この獣の刻印は、じつは電子デバイスなのではないかと考えていた。実際、複数の友人が、ソーシャルメディアを使ってオバマケアへの注意を呼びかけた。
●ニュースサイト「ワールドネットデイリー」に、ニュータウンで起きた銃乱射事件は、世論を銃規制の方向に誘導するために、政府が引き起こしたものだという趣旨の社説が掲載された。
●複数のウェブサイトに、オバマがまもなく戒厳令を発動し、3期連続での在任を可能にするだろうとの情報が載った。
同じような話は、ほかにもいくらでもある。実際にどれだけの人が、こういう話を信じているかはわからない。ただ、私たちのコミュニティの3分の1の人が、明確な証拠があるにもかかわらず、大統領の出自を疑っているとするならば、ほかの陰謀説も、思ったより浸透している可能性が高いだろう。
単行本『ヒルビリー・エレジー』
著者:J.D.ヴァンス
邦訳:関根光宏・山田文
価格:1,800円+税
出版社:光文社
発売日:2017年3月14日(火)予定