相続に関する法制度が、今年1月から段階的に変わっている。じつに40年ぶりとなる大改正により、高齢化社会に対応したルールが順次導入されていくことに。相続問題に詳しい行政書士の竹内豊さんは“妻の権利の拡大”に注目する。
「夫の死後、妻が1人で生きていく時間は長いので、今回は“残された妻”を保護するための改正が多いのが特徴です。自宅に住み続けるための権利や、介護の貢献によって相続人に金銭を請求できる権利など、妻の権利が広がることになります」
大改正の目玉の1つが、来年4月にスタートする『配偶者居住権の創設』。
「たとえば親子が不仲で、夫の死後に子どもたちが法定相続分どおりの金額を要求したら、妻は子どもが相続する分の現金を別途調達しなければならず、自宅を売却したお金で渡す、ということもありました。その不安を解消するため、住む権利である『居住権』が新設されます」(竹内さん・以下同)
また相続財産が自宅など不動産がメインの場合、分割の仕方をめぐってトラブルになりやすい。自分以外の相続人から最低限の遺産を手にできる「遺留分」を請求されると、土地の所有権を分ける場合もあった。今年7月1日に「遺留分制度の見直し」が施行されると、土地を相続した人が、遺留分を請求した相続人に現金で渡すという選択肢も明文化される。
ほかに、相続税の面で妻の負担が軽減される改正も。
「結婚20年以上の夫婦については、夫から妻へ生前贈与された自宅を相続税の課税対象に含まない『婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置』が設けられます。ただし、婚姻期間には事実婚は含まれないので注意が必要です」
’16年厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、主たる介護者は「配偶者」が25.2%と最も多く、次いで「子」(21.8%)、「子の配偶者」(9.7%)となっている。義理の両親の介護を無償でしてきた夫の妻は一定数いるが、どれだけ尽くしても法定相続人になれないため、相続で財産を受け取ることはできなかった。「特別の寄与の制度の創設」で、妻が相続人に金銭を請求できるようになる。
さらに、葬式等を取り仕切る際に知っておきたいのが、「預貯金の払戻し制度の創設」。家族の死後、故人の銀行口座は凍結され、現金の出し入れがいっさいできなくなる。葬儀費用の支払いなどでまとまった現金をすぐに用意するのが困難なケースも少なくない。
「現行の相続法では、相続人の間で遺産分けについて話し合いをする『遺産分割協議』が終了し、相続人全員の署名と実印が押された『遺産分割協議書』などを持って各金融機関で手続きをしてからでないと、故人の口座から現金を引き出すことはできません。亡くなった時点で銀行口座に残っているお金は相続財産になるので、仮に引き出すことができたとしても、後日もめることもあります。『預貯金の払戻し制度』が始まることで、遺産分割協議の前でもほかの相続人の同意なく単独で、故人の預金口座から一定額を引き出すことができるようになります」
家庭裁判所の判断がなくても「一定額」であれば引き出せる。その金額は、預貯金額の3分の1に法定相続分の割合を乗じた数(ただし、同一の金融機関に対して150万円が限度)となる。
やはり残された家族が相続をめぐって争わないために、「遺言書」を書いておきたいが、「家族が仲よしだから」「面倒だから家族に任せる」などと書かない人が多い。
今年1月に始まった「自筆証書遺言の方式緩和」は、遺言書作成のハードルが引き下げられた。
「遺言書の本文と同様に、添付する『財産目録』は手書きに限られていましたが、パソコンでの作成や、貯金通帳のコピーなどの添付が認められるようになりました」
また、自分で書いた遺言も、自分で保管しなければならず、後に「遺品を整理していたときに仏壇の引出しから見つかった」などと、故人の思いが反映されないことがあった。「法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設」がスタートすれば、市区町村にある法務局が自筆証書遺言を預かってくれるようになる。紛失や改ざん、破棄などのトラブルも防止できる。
「昔は長男が家督を継ぐのが当たり前だと思っていたので、ほかのきょうだいから異論は出にくい状況でしたが、今は核家族化が進み、相続に関する情報もあふれているので、次男、三男、女のきょうだいでも権利を主張するようになった。今回の改正を最大限活用するためにも、最新情報をチェックして、事前に備えておきましょう」