性的少数者(LGBT)や全ての人が生きやすい社会を目指すイベント「ピンクドット沖縄2019」が1日、那覇市の琉球新報社1階で開かれる。県出身でタレントのりゅうちぇるさんはかつて性に対するコンプレックスに悩んだ経験から、自分らしく生きる大切さについて発信している。ピンクドット開催を前に本紙の取材に応じ「男とか女とか、年の差や人種も関係なく、人が人を愛する時代になっていく。新しい風が吹いていて、すてきだと思う」とエールを送った。
幼い頃から「かわいいもの」が大好きだったりゅうちぇるさん。家ではバービー人形を着せ替え、幼稚園では女の子とままごとをして遊んだ。母親に連れられて戦隊ヒーローのイベントに出掛けても、格闘シーンが始まると「怖い、帰る。けんかは見たくない」と怒って泣き出す子だった。
素の自分でいられた生活は、宜野湾市内の中学に入学して変わっていく。制服や校則、部活など画一的なルールが増え、個性的なルックスゆえにヤンキーに目をつけられた。「このままじゃいじめられる」。周りから浮かないため、孤独にならないため、自分を偽るようになった。「わざと低い声で話したり、好きでもない曲を聴いたり、周りに染まることで必死だった」
中2で始めたメークも、ディズニーが好きな自分も人前では“封印”していた。それでも周りとどこか違う自分を隠し通すことはできず、学校の三者面談では先生に「女子とばかり遊んでいる。親からも注意を」と言われた。恋愛感情を抱く対象は女の子だったのに、周囲からは「ゆくさー(嘘つき)、男が好きなんだろ」と決めつけられる。「いっそのこと、男の子が好きなように生まれちゃえばまだ楽だったのかもとか、そういうことをよく考えていた」と振り返る。
「自分を信じ、愛して」
タレントやモデル、歌手と活躍の場を広げ続けるりゅうちぇるさんは、SNS(会員制交流サイト)で人生の大きな転機を引き寄せた。
中学時代、孤独にならないため「普通」であろうと偽ることが、かえって自分を孤独へと追い込んでいた。「楽しく生きたい」。地元の同級生が行かない高校に進学し、ありのままの自分をさらけ出すことを決めた。中学卒業と同時に始めたツイッターのプロフィルには「ちぇるちぇるランドの王子様」と書き込んだ。りゅうちぇる誕生の瞬間だった。
ツイッターに、自慢のファッションやメークの様子を投稿するとすぐに話題を呼んだ。進学した高校の入学式の日には既にちょっとした有名人で、「あの子知ってる?」とのうわさは広がり、フォロワーもどんどん増えた。「自信につながったし、素でいられる友達もできた」と振り返る。
高校卒業後に憧れだった東京・原宿に行くと決断したのも、ツイッターを通じて「古着店で働かないか」と声を掛けられたことが決め手となった。那覇市の国際通りとはあまりに違いすぎ、「毎日が全島エイサーまつりのようなにぎわい」を見せる原宿の竹下通り。初めて訪れた際の感動と衝撃は今も鮮明で、時折うちなーぐちを交えながら当時を思い出しては、ハイトーンボイスで笑った。
りゅうちぇるさんは、自分らしさを貫くことは「自分を信じ、自分を愛すること」だと説く。「普通」であることや偏見に悩んできた経験から、誰もが生きやすい社会を目指すために大切なことも「自分への愛と自己肯定感」だと感じている。
「自分のことを一番自分が愛してあげられたからこそ、上京して好きな仕事が見つかり、運命の人(妻のぺこさん)や子ども(息子のリンクくん)に出会えた。自分を好きじゃないと生まれなかった行動力だと思う」
りゅうちぇるさんの元には、生き方に共感するファンからの相談も多く寄せられ、中にはLGBT当事者の悩みもある。「僕は当事者ではないけど、性へのコンプレックスを抱いていた。全ての愛が美しいと思っているので、応援したい」と話す。
りゅうちぇるさんには夢がある。自分のメークブランドを立ち上げることだ。街を歩くと、メークをした男性の姿を以前より多く見かけるようになった。社会は少しずつ変わっている。「男性でも女性でも、年齢も気にせず自分を表現してほしい。誰かの人生が変わったり、僕のような男の子がいていいんだと思ったりしてもらえるために、いろんな仕事をしていきたい」
(當山幸都)
◆性的少数者(LGBT)やすべての人が生きやすい社会を目指すイベント「ピンクドット沖縄2019」が9月1日(日)午前11時~午後5時、那覇市泉崎の琉球新報社エントランス広場で開かれる。
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