同級生と一緒に授業を受ける湯地駿羽さん=那覇市立小禄中学校 画像を見る

 

「障がいのある息子が修学旅行に行くには付き添いが必要だと言われましたが、その費用は全額保護者負担です。かなり高額になります。これでは障がいのある生徒は修学旅行に行くことができません」。人工呼吸器を使用しながら那覇市立小禄中学校に通っている湯地駿羽(ゆじはやと)さん(14)の母三代子さん(44)が取材班に意見を寄せた。取材を進めると、障がいのある子もない子も共に学ぶ「インクルーシブ教育」が進められる一方で、そのための制度や対応が整っていない実情が見えてきた。

 

修学旅行は12月中旬。2泊3日の日程で関西に行く予定だ。生徒1人当たりの費用は約7万円。保護者が付き添うとなれば、往復の航空運賃、宿泊費、介護タクシーなど現地での移動費も含め約30万円がかかる見込みだ。

 

長嶺肇校長は「学校として今できることはヘルパーや引率教員を増やすことだけだ。保護者の気持ちも分かるが、今ある枠組みの中でしか対応できない」と苦渋の表情を浮かべる。

 

駿羽さん本人の費用は、障がいのある児童生徒が特別支援学校や小中学校の特別支援学級で学ぶ際に、保護者の負担する経費を補助する「特別支援教育就学奨励費」で約2万8千円の補助がある。一方、付き添いの保護者に関して、那覇市教育委員会は「制度がないため、経済的支援はできない」とする。

 

障がい児の親などに取材すると、「県立特支校は保護者の付き添いにも補助がある」という情報が寄せられた。なぜ、県立と市立で差があるのだろうか。県教育委員会に問い合わせると「収入に応じて、一部補助をしている。国の仕組みにのっとってやっている」という回答を得た。

 

ここで言う国の仕組みとは「特別支援教育就学奨励費」のことだ。

 

制度を詳しく調べると、特支校と特支学級で、補助対象や割合が異なっていることが判明した。

 

◆専門家「不平等の解消を」

 

国の「特別支援教育就学奨励費」制度では、特支校と特支学級で補助対象や割合が異なっている。これらの違いについて、文部科学省の担当者は「特支校は障がいの程度の重い児童生徒が、特支学級は程度が軽い児童生徒が通っているため」と説明する。

 

しかし、普通学校にも障がいの重い子が通っている現状と乖離(かいり)していないだろうか。担当者は本紙の取材に「要望があれば、制度の見直しを検討するが、現状ではそのような要望はない」と答えた。

 

全国医療的ケア児者支援協議会の駒崎弘樹事務局長は制度の差について、「重度心身障がい児や医療的ケア児が普通学校に行くこともある時代に、時代遅れの対応」と指摘する。

 

障がい者の権利に詳しい岡島実弁護士は「重度の子は特支校、という認識がそもそも違う。障がいの程度にかかわらず、同じ場所で学べるようにするのが今の(障がい者に関する)法の趣旨だ」と説明し、「現状の不平等を解消していくことを考えていくべきだ」と話した。

 

那覇市教育委員会などは17日、人工呼吸器を使用しながら那覇市立小禄中学校に通っている湯地駿羽(ゆじはやと)さん(14)の母三代子さん(44)と話し合いを持ったが、各種制度が想定していない事態のため、具体的な支援策の決定には至らなかった。

 

佐久田悟学校教育課長は「どの学校に通っているかではなく、対象児童生徒に着目した補助の制度になることが望ましい」と国に要望する。

 

駿羽さんは幼稚園から地域で学んでいる。三代子さんは「インクルーシブ教育は本来とてもすばらしいもの。でも経済的、精神的負担が保護者にのしかかっている。経済的な不安なく地域で学べるように整えてほしい」と望んでいる。
(玉城江梨子)

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