「いまでは、患者さんは外来を受診する前にインターネットなどでなんらかの情報を得ています。しかし、ネット上の医療情報は出典も執筆者も不確かで間違いだらけの記事も多く、まともに信じてしまうと、命の危険さえ伴います」
そう話すのは、外科医の山本健人先生。山本先生はこの状況を改善したいと、「外科医けいゆう」のペンネームで’17年に医療情報サイト「外科医の視点」を開設、患者に寄り添った視点で語られ人気サイトに成長。新著『医者が教える正しい病院のかかり方』(幻冬舎)も話題を呼んでいる。
今回は、けいゆう先生のもとに多く寄せられる疑問のうち、がん治療に関するものを紹介。“外科医の本音”を聞かせてもらった。
【Q1】がんを切るべきか、切らざるべきか迷ったときは?
「切るか切らないか、そのメリットとデメリットが等価値である症例は、現代のがん医療ではほとんどありません。なぜなら臨床試験で、『どれが有効か』という答えが得られているから。その判断を医師と患者が頭を抱えて迷わなければならない例はそもそもあまりないのです。それを前提に、多くのがん(固形がん)は取りきれる場合においては手術が有効です。手術で取りきれないような転移が認められている場合は、切除したとしても一部のがん細胞が残存し増殖を始めるので、手術は有効ではないと判断します。その場合、放射線や抗がん剤などの治療の選択肢から検討することになります」
【Q2】手術前に必ずすべきことは?
「禁煙は必須です。最低でも1カ月は禁煙しないと、傷が治りづらくなる、痰が出て肺炎になるなどのリスクが上がります。一生懸命腕を磨いた外科医が最善の手術を施し、患者さんが治療に対して意欲的であることが不可欠なのです。節酒は大切ですし、肥満の人のおなかは脂肪の海。病変が脂肪まみれでは腫瘍にたどり着くのが困難になり、手術の難易度が上がります。日ごろから『常に術前』という気持ちでいることがさまざまなリスクを軽減します」
【Q3】執刀医は指名すべき?
「する必要はないと思います。執刀医とは、あくまで1つのポジション。手術によっては熟練した医師が第一助手で、若い医師を執刀医として配置したほうが態勢としてはスムーズにいくこともあります。ベストな手術を受けたいのであれば、誰に執刀してもらうかはお任せしたほうがよいでしょう」
【Q4】「治りますか?」と担当医に聞いてもよい?
「これはみなさん聞きたいことだと思いますが、まずは“治る”の定義をはっきりさせるべきでしょう。かなり初期の胃がんや大腸がんで、内視鏡で削り取ったら終わり、というケースは、治るといってもいいのかもしれません。しかし、二度と病院に通わなくていい、完全に解放されることを治るというなら、がんの場合は治るとは言いにくいものが多いです。特にかなり進行した状態で見つかった場合には、慢性疾患であるという理解が必要です。糖尿病などと同様、長期的に通院が必要など、長く付き合うことを受け入れなければならないことも。そのうえで、治療をしながら日常生活を楽しんでもらえるように導くのが医師の務めだと私は思います」
【Q5】医師の出身大学は医療の質と関係がある?
「関係ないと言えるでしょう。出身大学は、あくまでも受験時の学力。臨床力、心理面のケアの経験、医療チーム内でのコミュニケーション能力、不測の事態における判断力などのスキルとは別物です」
「女性自身」2020年1月1日・7日・14日号 掲載