「日本ではトランプ大統領の“過激な発言”が頻繁に報道されたため、バイデン氏の圧勝を予想した人は多かったと思います。『人種差別の解消』『環境問題の是正』や『国際協調』を謳い、『トランプ大統領よりは聞く耳を持っている』と言われていたバイデン氏ですが、“政策に具体性がない”という指摘も受けていました」
こう語るのは『コロナ後の世界』(文春新書)の編著もある在米ジャーナリストの大野和基さん。それでもバイデン氏に軍配が上がったのは「新型コロナ感染拡大という背景があったからでしょう」と分析する。
アメリカ大統領選ウオッチャーで、明治大学政治経済学部教授の海野素央さんも、“コロナ禍でなければトランプ大統領の圧勝だった”と見ている。
「しかし選挙戦の大詰めで、トランプ大統領は新型コロナに感染。退院したあとはマスクもせずに大規模集会を行い、“強いリーダー像”を見せようとしました。ただ、そんな感染対策を無視した選挙運動に、嫌悪感を抱いた有権者が多かったのです」
反対にバイデン氏の選挙運動といえば、マスクをしてソーシャルディスタンスを保つ姿が多く報じられていた。海野さんが続ける。
「バイデン氏は、人々の目に“強いリーダー”ではなく“共感できるリーダー”に映った。それが支持を集めたのだと考えます」
自らの政策を強く打ち出すより、トランプ大統領の政策に反対することで選挙を戦い抜いたバイデン氏。彼の政権は、日本にどのような影響を与えるだろうか。大野さん、海野さん、そして国際政治ジャーナリストの小西克哉さんに聞いた。
【経済】日本企業のチャンス広がるも、都市封鎖で“大打撃”の危機
トランプ大統領は、日本が輸入する米国の牛肉や穀物の関税を引き下げる交渉をしてきた。
「日本に対し『日本産自動車の関税を25%に引き上げる』という“脅し”を交渉材料にしていたトランプ大統領。そのため日本企業は、自動車産業にしてもアメリカ国内と国外どちらで作ればいいのか、長期的な設備投資が困難でした」(小西さん)
「国際協調」「自由貿易」を標榜するバイデン政権下であれば、そのような“強気な交渉”はなくなり、日本企業がのびのびビジネスを展開できるだろう、と小西さん。
「さらに、バイデン氏は『二酸化炭素排出削減』という環境問題にも力を入れています。日本がクリーンエンジンや、クリーンエネルギーの分野に投資すれば、アメリカ市場でビジネスチャンスが生まれます」
しかし、コロナ感染拡大が悪化するようなことがあれば、このような懸念も……。
「経済優先のトランプ大統領とは違い、感染防止を徹底するバイデン氏は都市を“ロックダウン” するという選択に踏み切るはず。経済停止によって米国の株価が暴落すれば、日本経済も大打撃を受けるというデメリットもあります」(大野さん)
【平和問題】“強気な取引”なくとも自衛隊の負担は増加か
日本が負担する在日米軍の費用(思いやり予算)の’21年度予算について、現状の約4倍超にあたる8,500億円を要求してきたトランプ大統領。
「安倍政権下でイージス・アショアを買うよう要求したように、トランプ大統領は同盟国を取引相手と見ていました。バイデン氏は、こうした露骨で、強引な取引はしないと見ています」(海野さん)
だが、バイデン氏が日本に対して軍事的な負担を“全く強いない”ということは考えにくい。
「たしかに『金をよこせ』と露骨な要求はしないでしょう。しかし、『日米の安全保障のために自衛隊の活動範囲を広げてほしい』といったふうに、“言い方が変わるだけ”で負担が増えることも考えられます」(小西さん)
政治的姿勢に“穏健すぎる”という指摘を受けるバイデン氏だが、トランプ大統領が日本に強いてきた負担が、少しでも軽減されるように手腕を振るってほしい。
「女性自身」2020年11月24日号 掲載