「薬局でも在庫がなくなっていたり、なくなりかけたりしている薬が増えています。コロナ禍のせいで、インドや中国で原薬(医薬品の有効成分)の製造が滞っているそうで、今後は内科系の持病のある患者さんの薬も処方できなくなるのではないかと心配しています。もちろんできる限り、代替可能な薬もおすすめしますが……」
そう不安を漏らすのは、東京都内の開業医。
’20年にマスクを求めて人々が列をなしたこともまだ記憶に新しいが、実はいまも現場の医療関係者は“薬品不足”を懸念しているというのだ。医療ジャーナリストによれば、
「いわゆるジェネリック医薬品では原薬の約6割を韓国、中国、イタリア、インドなどからの輸入に頼っています。それが’20年3~5月ごろには海外でロックダウンが頻発し、工場の操業が止まったり、航空便が減少したりして、輸入が滞るという緊急事態が勃発しました。
当時、大阪府のある医薬品メーカーは、“インドのロックダウンの影響により、抗生物質など数十の製品の出荷制限を行っている”と、コメントしています」
’19年に抗菌薬の供給困難を機に発足した「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」(以下、厚労省の有識者会議)もコロナ禍の影響を注視しているという。会議のメンバーである神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科の坂巻弘之教授はこう語る。
「マスクも安定的に供給できるようになるまで半年ほどかかりました。それが化学合成を積み重ねた薬となると、さらに供給が安定するまで時間がかかります。海外、特に1国や1社に頼りすぎるのはリスクが高いのです。昨年のインドの輸出停止は一時的なもので、外務省や大使館の奔走で、チャーター機により原薬を確保することができました。いまは、かなり落ち着いてきている状態だと認識しています」
また同じくメンバーの「一般社団法人 日本薬業貿易協会」の藤川伊知郎会長は、
「医薬品は旅客便の下の貨物室に積んで輸送することが多いのです。当時は、たとえ原薬があっても、旅客機が飛ばない、空港職員が足りないといった理由などで、輸送できない状況でした。
現在(12月下旬時点)はおおむね解消していますが、まだ100%医薬品の物流が回復したということではありません。フライトのブッキングには時間もかかりますし、運賃も値上がりしています」