「3月中旬に、知り合いの医療関係者から連絡をもらったのです。『ワクチンの優先接種枠が余っているので、よかったら受けませんか?』と。当時は、ようやく日本で医療従事者への接種が本格的に始まったばかり。“自分が受けてもいいものか”と、悩みました。しかし、仕事で日々、不特定の人々と接することも多く、感染への不安も高まっていましたので、申し出を受けることにしたのです」
そう語るのは、東京都在住の50代男性・Aさん。
現時点で新型コロナウイルス・ワクチンの優先接種対象となっているのは、医療従事者と65歳以上の高齢者に限られている。日本経済新聞社の調査によれば5月25日時点で、65歳以上の高齢者でも、少なくとも1回接種できた人は8.2%にすぎない。
そんななかでAさんは医療従事者でもなく、基礎疾患も持たないのに、コネにより5月上旬にすでに2回の接種を完了したという。
「埼玉県ふじみ野市の高畑博市長(59)ら首長たち、スギホールディングス顧問夫妻、オービック会長夫妻……、未遂も含めて全国で“コネ接種”の発覚が頻発しています。その共通点は、彼らが病院もしくは自治体に強力なコネを持っているということです」(医療ジャーナリスト)
すでに接種券を持ちながらも、予約に四苦八苦し、順番を待ちわびる高齢者も多いなか、なぜ“横入り”がまかり通っているのか。感染症を専門とする「のぞみクリニック」の筋野恵介院長はこう解説する。
「ファイザーのワクチンは1瓶で5人接種できます。しかし生理食塩水で希釈した後は、6時間以内に使い切らなければいけません。たとえば15人分のワクチンがあったとしても、その日に受けられる医療従事者が14人しか集まらないということもあります。そこで“廃棄するくらいなら誰かまわりの人にでも打ってもらったほうがいいのでは”という声が上がったこともあったそうです」
もちろん貴重なワクチンを無駄にするべきではないだろう。しかし東京都内のある病院の院長の証言を聞くと、首をかしげざるをえない。
「余った分は、よく病院に来てくれる患者さんに回してあげたいと思うのも人情なんです。誰を優先するか? という問題もあったのですが、結局、いつもお歳暮を送ってくれている方から順番に連絡しました」
特に医療従事者枠による接種に関しては病院による裁量が大きく、チェック機能も働いていないという。