市中で猛威をふるうデルタ株。それに加えて、「ラムダ株」という名前を最近耳にした人も多いのではないか。じつはこの変異株、きたるべき第6波の主役になることが懸念されているーー。
「7月20日、羽田空港の検疫で、ペルーの滞在歴がある30代女性から、南米で大流行している新型コロナウイルスの変異株のラムダ株が、国内で初めて検出されました。ところが厚生労働省が明らかにしたのは、それから17日もたった8月6日のことです。7月23日に開幕した東京五輪に、これ以上の批判を集めないためにも、意図的に発表を遅らせたのではないか。米国ニュースサイト『デイリー・ビースト』は日本政府が“隠蔽した”と報じています」(医療ジャーナリスト)
8月12日、『報道1930』(BS-TBS)に出演した自由民主党の佐藤正久参院議員(60)は、7月23日の時点で女性が感染しているのはラムダ株だと解析していたことを認めた。
26日に国際機関に報告したが、8月6日に報道機関から問い合わせがあるまで、ラムダ株の上陸は発表しなかったという。さらに13日、感染していた女性が五輪関係者だったことも明らかになった。
政府の姿勢を「論外だ」と切り捨てるのは、医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広さんだ。
「いま、大流行しているデルタ株のあとに流行するのではないかと懸念されているのが、今回、空港検疫で発見されたラムダ株です。恐ろしい変異株で、人口あたりの死者数が世界最悪となったペルーを中心に、南米で猛威をふるっています」
昨年8月にペルーで発見されたラムダ株。まだ日本ではほとんど知られていないこの変異株は、どのような危険性を秘めているのか。上さんが解説する。
「ペルーでは今年1月ごろから増加し始め、現在は新規感染者のほぼ全員がラムダ株です。チリやアルゼンチンなど、周辺国にも広がりを見せています。今年6月、ラムダ株のゲノムの全配列が公開されたのですが、10カ所以上が従来の株から変異していることがわかりました。特徴的なのがF409Sという部分の変異で、これによってワクチンの効果が従来型に比べ5分の1ほどに落ちると見られています」
ラムダ株の研究論文を発表した東京大学医科学研究所の佐藤佳さんは、ほかの変異株と同様、ラムダ株も「人類にとって潜在的な脅威となる」と結論づけている。
「われわれの行った細胞実験では、従来型にくらべ感染力が1.5〜2倍で、デルタ株と同程度でした。ワクチンを打つと得られる中和抗体の効き目も、従来型よりも2倍ほど弱いという結果。非常に危険な変異株である可能性が高いと見ています」
このような危険な変異株の上陸を日本政府は秘匿していたのだ。厚生労働省側は「日本では懸念される変異株(VOC)、注目すべき変異株(VOI)のどちらにも指定されていないため、発表しなかった」と弁明しているようだが、これは日本の独自基準での話。
世界保健機関(WHO)の基準では、ラムダ株はVOIに該当する。アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株が指定されているVOCより一段低い扱いだが、WHOがラムダ株をVOCに格上げする可能性も取りざたされていて、日本の独自基準で指定がないので発表しなかったというのは、言い訳にはならないのだ。
果たして、この恐怖の変異株にどう立ち向かえばいいのだろうか。米国ボストンに住む、内科医の大西睦子さんはこう解説する。
「ニューヨーク大学がワクチン接種したボランティアの血液を検査したところ、モデルナ社やファイザー社製ワクチンは、ラムダ株に効果があるとわかりましたが、将来の追加接種(3回目以降の接種)も議論されています。しかし、日本は米国に比べワクチン接種率が低く、追加接種どころか、2回目の接種の予約を取ることも困難な状況。米国と同列には語れません」
こうした状況のなか、ラムダ株を上陸させない水際対策が大切になってくるが、ここに大きな穴があると、上さんは言う。
「中国や台湾などは、水際対策で日本よりも厳しくPCR検査を徹底しているのに、網をすり抜けるように国内でコロナの感染者が出続けています」
一方、両国よりも、日本の検査体制はずっと甘い。
「日本では1〜2月にはイギリスで発見されたアルファ株が大流行しましたが、いまはそれがデルタ株に置き換わって、第5波として、猛威をふるっています。いずれの変異株も、いつの間にか検疫をすり抜け、市中で広がりました。ラムダ株がすでに国内に入り込んで感染者を少しずつ増やしていても、不思議ではない。昨年の流行時期と照らし合わせると、おそらく9月ごろから、第5波はピークアウトしていき、一定期間、小康状態がくることが予想されます。そして今年の冬に、新たな変異株が流行することになります。その第一候補がラムダ株なのです」(上さん)
ラムダ株は冬に予想される第6波の“有望株”ということだ。