飼料の高騰、世界的な需要増により食肉価格も上昇している(写真:共同通信) 画像を見る

いっこうに見えないコロナの出口。多くの人が収入を減らすなか、なんと多くのものの値段が上がるという。いったい何が、いつ、なぜ上がるのか。経済の専門家とみるーー。

 

「8月16日、内閣府は4〜6月までの最新のGDP(国内総生産)を発表しました。年率換算で“1.3%増”と、2期ぶりのプラスです。しかし、米国や中国、EUなど世界の主要国は日本の数倍のペースでGDPを上昇させています」

 

こう話すのは世界の経済情勢に詳しい経済評論家の加谷珪一さん。確かに、同じ期間に、米国は6.5%増、中国は5.3%、欧州(ユーロ圏)は8.3%もGDPを成長させている。

 

このような差が生まれた理由を加谷さんはこう語る。

 

「ひとつは、コロナ禍における各国政府の対応の差です。米国は計3度、国民に給付金を支給しました。欧州各国は国がバックアップして国民に手厚い休業補償を実施。それらと比べると、日本の補償は微々たるものでした。個人消費が大きく落ち込みました」

 

■世界中で始まった食品・資源の争奪戦

 

さらに、ワクチンでも大きな差をつけられた。

 

「希望する国民にワクチンが行きわたり、以前のような経済活動を再開している先進国が増えました。一方、日本はワクチンの2回接種が完了しているのは、高齢者層ばかり。経済を動かしている若年層には行きわたっていません」

 

日本の経済活動は停滞したまま。“コロナ失策”の結果、日本は世界経済から“置いてけぼり”に。

 

「いま世界各国で、石油や天然ガスなどの資源、穀類や食肉類などの食品の奪い合いが起きていて、価格も高騰しています。景気のいい国では賃金も上昇しているので消費者も対応できるのですが、景気がいっこうに回復せず賃金も上がっていない日本の消費者は、この価格高騰のダメージを大きく受けることになります」

 

資源に乏しく、人口のわりに耕地面積も狭い日本は、輸入品に大きく依存している。世界的な資源、食品の価格高騰は、私たちの家計に大きなダメージを与えるのだ。

 

これから約1年で、値上げが予定されているもの、値上がりが予想されているものをみていこう。

 

【食品類】

 

「小麦の価格は1年間で1.4倍にも上昇しました。また、大豆や砂糖など食品の原料となるあらゆる農作物が値上げとなっています」

 

小麦価格の上昇をうけて、9月にはパスタ麺が値上げされる。小麦粉に加え、砂糖の価格上昇の影響も受ける菓子製品の値上げも10月に予定されている。

 

「ほかにも、食卓への影響が大きいものとして、食用油の値上げが。日清オイリオグループ、J‐オイルミルズ、昭和産業の3社は8月納品分から、食用油を1キロあたり50円値上げしています」

 

じつは今年になって食用油の値上げは3回目。1キロあたり合計110円もの値上げとなっている。

 

「また、マーガリンも値上げです。材料となるパーム油が、この1年で1.7倍に高騰したためです」

 

さらに、大豆価格の高騰も、10月ごろには豆腐や納豆などの大豆由来食品の値段に反映されそうだ。

 

身近な嗜好品の値段もかわる。

 

「コーヒー豆の価格はここ1年で1.4倍に値上がりました。国の経済成長とともにコーヒーの消費量が増えるといわれ、ここ数年、コーヒーは世界的に品不足になっているんです」

 

一見、値段が変わっていないように見えても注意が必要だ。

 

「値段は据え置きで内容量を減らす、いわゆる“ステルス値上げ”もあります。商品が新パッケージになったときには、従来品と価格・内容量・成分などを見比べることも必要でしょう」

 

【その他】

 

ウールの価格は1年間で1.5倍に上がっている。’21年は「衣料品の価格が上昇していく可能性がある」という。

 

「特に、学生服はウール地が多く、毎年価格が上がっています。来年1月から4月ごろにかけて、ふたたび値上げがありそうです」

 

また、電子機器に欠かせない半導体の価格は、この半年で1.5倍から2倍ほどに高騰しているという。

 

「携帯電話やパソコンなど、電子機器の価格が、モデルチェンジのタイミングで高くなりそう」

 

【介護・医療】

 

介護費や医療費などの値上げも、家計に重くのしかかる。

 

ファイナンシャルプランナーの中村薫さんは解説する。

 

「介護保険は、今年8月1日から制度変更がありました。介護施設やショートステイで食事を利用する人は、9月分の請求額から額が増えている可能性があります。たとえば、介護施設を利用する人の場合、年金収入などが120万円超で、かつ単身で預貯金額などの資産が500万円以上ある場合、1日の食費の自己負担限度額が650円だったのが、1,360円と倍以上になります」

 

さらに来年の6月には、2年に1度の後期高齢者医療制度の保険料の改定が予定されている。

 

「過去の見直しで、月額数十円から数百円値上げされてきました。前回は500円程度の値上げ。今回も同程度の値上げが予想されます」

 

最後に加谷さんは嘆息する。

 

「コロナ前から経済成長で出遅れていた日本は、コロナ対応の不手際で世界との格差をさらに広げました。挽回はかなり難しい」

 

“値上げ”の流れは止まる見込みがない。“敵”を知って少しでも備えよう。

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