「40年ほど前から介護の現場に関わっているのですが、長い間、介護や認知症に関する資料が少なく、現場はいつも手探り状態でした。患者さんを診ているうち、状態が急変したり、症状が悪化するときには水が足りていないという共通点があることに気づいたのです」
こう話すのは一般社団法人日本自立支援介護・パワーリハ学会会長の竹内孝仁先生だ。
日々の現場で患者さんと接しながら解決法を模索していた竹内先生。突然熱が出たり、原因不明のまま入院したり、寝たきりになる高齢の患者さんたちは、総じて摂取している水分量がとても少ないことがわかった。
「年をとると、どうしても若いころに比べて水分摂取量が少なくなります。新陳代謝が落ちていることもその理由のひとつですが、トイレに行く回数を減らす目的の人も多いです。しかし、脳は体の中でも最も水を必要とする組織です。摂取する水分量が少ないと、当然、脳への水分も足りなくなり、血液がドロドロになり認知機能が低下します」(竹内先生・以下同)
さらに、ぼんやりしたり、うつらうつらした状態になるのは熱中症の症状と似ていることにも着目した。熱中症は発汗などで水分が減ったときに起こるのだ。
「実際、人体の総水分量の1~2%減少しただけでも疲労感、イライラ、頭がボンヤリする、覚醒レベルが低下といった意識障害が起こります。3%になると血流が悪くなり、脳梗塞が起こりやすくなり、5%になると体の自由が利かなくなり、7%で幻覚、幻聴、意識混濁、10%で死に至ります。人の体から500ミリリットルのペットボトル1本分の水が失われるだけで意識障害が起こるのです」