「(ギネス世界記録は)意識していなかったのでサプライズでした」
3月11日のオンライン会見で、そう言って笑顔を見せたのは、マラソン日本記録保持者の鈴木健吾選手(26)。
鈴木は3月6日に開催された東京マラソンに、妻・一山麻緒選手(24)と出場した。夫婦そろって日本人1位となり、合計タイムは4時間26分30秒。’17年にケニア人の夫婦が樹立したギネス世界記録を更新し、“世界最速夫婦”となったのだ。
鈴木と一山が出会ったのは’19年。そして結婚を発表したのは、昨年12月のこと。一山は所属するワコールのホームページでこんなメッセージを発している。
《これからもお互い同じ目標に向かって、どんな時も支え合い、高め合いながら、私たちらしく日々精進して参ります》
まさにこの“新婚の誓い”どおりに、好結果を出したのだ。
鈴木が宇和島東高等学校在学中に陸上部監督を務めていた和家哲也さん(50)はこう語る。
「高校時代からコツコツと練習できる生徒で、いずれは2時間10分を切れるランナーになるだろうと思っていましたが、昨年、2時間5分を切ったことには驚きました。
そのとき電話で『もうお前に教えることは何もないな』と言ったら、『先生、教えることがないなんて、勘弁してくださいよ』と。いつも謙虚なんですよね。だから、日本記録を出したことで、世間の彼を見る目が変わってしまったことに戸惑っているようです。
鈴木も一山選手もいっしょに過ごせるオフの時間はわずかでしょうけど、お互いの存在が競技にもプラスになっているのでしょう。“日の丸を背負う選手”にしかわからないプレッシャーもわかり合えるのだと思います。
鈴木の両親も『息子がマラソンに出るたびに胃が痛くなる思いでしたが、“娘”ができて(胃痛も)2倍になってますよ』なんて、うれしい悲鳴を上げています」
恩師によれば、とても謙虚だという鈴木。結婚を決断したのは発表より1年ほど前だったようだが、意外なことに、当時はお相手の一山に対して“引け目”のようなものを感じていたという。
一山の恩師である鹿児島の出水中央高等学校・女子陸上部監督の黒田安名さん(67)によれば、
「麻緒はお料理も得意で、高校時代から子供好きでしたね。当時は無名の選手でしたが、タフで故障もしませんから、『将来は五輪に出場できるな』なんて言っていました。
麻緒が健ちゃん(※鈴木選手)といっしょに出水中央高校にやってきたのは、’21年の正月ごろだったと思います。『付き合っています』と、言っていました。麻緒が京都市の実業団の所属で、健ちゃんの練習場所は千葉。新婚生活もままならないだろうと思いましたが、『それでも結婚する』と言っているから、肝がすわっていると思いました。
彼は謙虚な青年で、『僕はケガばかりしていて、実績がありません。麻緒さんとは釣り合いがとれない』といったことも言っていました。当時、麻緒は東京五輪の出場も決まっていましたからね。
それで僕は『次の大会で日本記録を出せばいいじゃないか』と、励ましたのですが、(’21年2月の)『びわ湖毎日マラソン』では、本当に2時間4分台の日本新記録で優勝して……」
“恋人に釣り合う選手になりたい”という思いが、日本新記録を生んだのだろうか。
「そうですね、身びいきかもしれないけれど、麻緒との交際や結婚もよかったのだと思いますよ。“素晴らしい女性”を見つけたと、健ちゃんを褒めたいです(笑)」