【前編】全盲の弁護士と音楽家の夫婦 子どもたちの笑顔は心に映ってから続く
夫婦それぞれに「もし、目が見えたら何を見てみたいですか?」と尋ねた。
「子どもたちの顔が見たい」
こう即答したのは誠さん。いっぽうの亜矢子さんは、
「私ももちろん子どもたち。
でも、私は幼いころから鏡を見るのが夢だったので、まずは鏡かなぁ」
そしてふたたび、大胡田家。
「今日のお肉、おいしいね〜」
食卓からは、子どもたちのうれしそうな声が聞こえてくる。
「今日は取材があるから奮発したんだ、やっぱり和牛は違うよね」
こう言って笑う誠さん。亜矢子さんも「うん、おいしい」と器用にナイフで切り分けた肉を、フォークで口に運んでいる。
ここで記者は、子どもたちに最後の質問をした。「もし、パパとママの目が見えたら、何を見せてあげたい?」と。
響くんは、照れくさいのか声に出さずに自分で自分の顔を指さしてみせた。
そんな弟を見て、こころさんは、「私も同じかな。あ、あと鏡、鏡を見せてあげたい」
■子どもたちも自分のことはできるようになりましたし、私たちを手助けしてくれる場面も
誠さんと亜矢子さん、ふたりはともに全盲の夫婦だ。
誠さんはハンディキャップを乗り越え、司法試験に合格。日本の法曹界史上3人目の、全盲の弁護士になった。幼いころからピアノを続けてきた亜矢子さんは、音大を卒業しソプラノ歌手に。弾き語りのミュージシャンとしても活躍。上皇后美智子さまの前で、歌声を披露したこともある。
ふたりは’10年に結婚し子宝にも恵まれた。しかし……。健常者でもたいへんな子育て。記者は素朴な、でも、不躾な質問を、ついつい、ぶつけてしまった。「目の見えないふたりがどうやって?」と。
「もちろん、できないことや難しいこともあります。でも、そこは割り切ってといいますか、見える人の手を借りながら、ですね。それに、いまでは子どもたちも自分のことは自分でできるようになりましたし、私たちを手助けしてくれる場面も少なくないんですよ」