運動不足や筋力低下も身長が縮む要因に(写真:アフロイメージマート) 画像を見る

「身長を測ったら、いつのまにか2cmも低くなっていて……。信じられませんでした」

 

こう話すのは、自治体が実施する健康診断を受けた都内在住の51歳の女性。周囲からは「50代以上ならよくあること」と言われたそうだ。しかし、身長の変化を加齢のせいだけで片付けてはいけない。じつは、「身長が縮むのと死亡リスクの増加には関連がある」という衝撃的な研究結果が先日、科学誌『Scientific Reports』に掲載されたのだ。

 

研究チームの中心を担った福島県立医科大学医学部腎臓高血圧内科学講座の田中健一准教授に、さっそく話を聞いてみるとーー。

 

「2年間で身長が5mm以上低くなった人は、そうでない人に比べて、死亡リスクが高まることがわかったんです」

 

田中先生らの研究は、’08年から ’10年までの2年間で、福島県、大阪府、沖縄県など7府県の特定健診受診者のうち、56~70歳の22万2千392人(男女比=約4:6)を対象に実施されたもの。この調査では、約2年の間に身長が5mm以上縮んだ人は、じつに全体の約31%の割合にのぼったという。

 

「身長短縮が5mm以上だった人の群は、5mm未満の人の群と比較すると、あらゆる原因による死亡リスクが『26%高い』ことが示されました」(田中先生、以下同)

 

身長が縮むことと死亡リスクの関連を調べた研究はこれまでにもあった。だが、それらの先行研究は身長が顕著に変化した場合のものが多かったと田中先生は話す。

 

「私は日ごろ、腎臓内科で人工透析の患者さんなどを多く診療していますが、腎臓疾患の合併症は骨粗しょう症など骨の疾患も多く、死亡リスクも高くなる傾向があります。これまでは、2cm単位での身長短縮と死亡リスクの関係が示されていましたが、もっと細分化して、ミリ単位で調べる必要があると思っていたのです」

 

たとえば、背骨を圧迫骨折した場合、身長が縮む要因になると同時に、健康寿命を脅かすこととなる。そこまで大きな変化でなくとも、身長短縮が寿命に関わる懸念があると考えたのだという。

 

ところで、私たちの身長はどのような要因から縮んでしまうのだろう。

 

「5mm程度の身長短縮の理由としては、慢性的な姿勢の悪化や運動不足によるちょっとした筋力低下などが考えられます。しかし、そこから全身の筋力が低下するサルコペニアや、心身の衰弱もみられるフレイルなどと診断される状態になると、将来的に死亡リスクが高まることにつながってしまいます。また、骨密度が低下すると圧迫骨折などを起こしやすくなるので、女性は特に閉経後、骨と筋肉を鍛えることを心がけるべきでしょう。サルコペニアやフレイル対策にもなります」

 

骨や筋肉を鍛えるとなると、どうしてもトレーニングが面倒、とかまえてしまう人もいるが……。

 

「運動習慣は手軽なものでかまいません。まずはウオーキング。有酸素運動は、以前は20分程度続けないと効果が得られないといわれていましたが、最近では1回10分単位でも積み重ねれば効果があるとされています。このとき大切なのは、背筋を伸ばして、よい姿勢で歩くこと。イメージは、ずばりマウンドに上がるときの大谷翔平選手の姿勢です。大谷選手の背中が丸まっている姿は見たことがありません。いい姿勢で1日トータル5千歩を目安にしてください」

 

2つ目は、WBCで大谷選手やヌートバー選手が日本中に広めた“ペッパーミルパフォーマンス”をお手本にしたスクワット。

 

「背筋を張った状態で立ち、ペッパーミルポーズをとってみましょう。こしょうをひく動作で自然と脇が締まり、姿勢がよくなります。その動きに合わせて、足を肩幅程度に開き、イスに座る程度の高さまで腰を下ろす『ハーフスクワット』を行いましょう。1セット10回で、1日2~3セットを継続することが大事です。ただし、痛みや違和感があるときは無理をしないでください」

 

さらに、日ごろの食事は「肉や魚、卵、大豆などタンパク質を意識的に取る」ことが大事だという。体重に比べるとあまり注視していなかった身長に関しても、きちんと目を向けることが大切だ。背すじを伸ばして、健康寿命も延ばしていこう!

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