ホスピスでは、親子で記念の手形と足型もとった 画像を見る

【前編】死の際で見つけた幸福…1歳9カ月のわが子を看取った女性が始めた「理想のホスピス作り」より続く

 

2018年9月、夫の仕事の都合で、ドイツ・デュッセルドルフに引っ越した石田千尋さん(41)。しかし、引っ越しした直後に、1歳半だったひとり息子の夕青くんの体調に異変が出てしまう。

 

複数の病院を受診した結果、下された診断は「神経芽腫」というがんの一種。すでに全身に転移のある「ステージ4」の状態だった。

 

現在、「ふくいこどもホスピス」という団体の代表として、子供のためのホスピス作りに尽力している千尋さんが当時を振り返る(全3回の2回目)。

 

■「おうち、かえろか……」

 

夕青くんは入院となり、10月中旬から抗がん剤の治療が始まった。

 

「初回は効果が出るのが早くて、元気になると、子供用の車のおもちゃを乗り回して病棟から飛び出てしまうこともありました」

 

このときの治療は順調で月末に一時退院を許可されている。

 

「家に帰っても食べていいもの、いけないものの制限が厳しく、おいしいものを食べさせてあげられなくて。公園にも元気になったら行こうね、と我慢させてばかりで」

 

容体が急変したのは3度目の一時退院時。自宅にいた12月22日のこと。鼻血が止まらなくなった夕青くんは緊急入院となった。

 

「あの日からは家に帰ることはできませんでした。嘔吐もありましたが、抗がん剤の副作用と思って、助かると信じていましたが……」

 

そして大みそかの31日の午後、千尋さんは夕青くんの余命宣告を受けてしまう。医師はこう告げた。

 

「がんが転移した肝臓の状態が悪くなっており、打つ手がありません。お子さんは亡くなるのを待つだけです」

 

千尋さんは告げられた内容を、にわかには信じられなかった。

 

「私の肝臓を移植できるでしょう! 私は母親なので適合するんじゃないですか」

 

思わず日本語で叫んでいた。しかし、医師は暗い面持ちでこう答えたという。

 

「体力のない夕青ちゃんはおなかを開いた時点でアウトです」

 

愕然とする千尋さんに、病院の副院長が懇々と諭した。

 

「こどもホスピスで最期の時間をよりよく過ごしては――。見学だけでも行ってきてはどうですか」
「ホスピス……」

 

当時の千尋さんには「死を待つだけの場所」というイメージがあった。絶望した気持ちで、なすすべもなく夕青くんのそばでうなだれる千尋さん。しかし、夕青くんはぐったりしつつも、小さな声でこんなふうに言ったのだ。

 

「おうち、かえろうか……」

 

食べることもできず、話すことも少なくなっていた幼子の魂の訴えだった。

 

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