1988年に俳優を廃業する予定だった石田純一 画像を見る

「『抱きしめたい!』でボクが演じた二宮修治という役、フジテレビが最初にオファーしたのは陣内孝則さんだったんです。でも、陣内さんはすでに他局の主演が決まっていたとか。さらに、2番目にオファーした方との調整も難航した結果、最終的にボクに回ってきたようです」

 

こう振り返るのは、石田純一さん(70)だ。偶然が重なって役を射止めた石田さんは、同ドラマを“最後の作品”にするつもりだった。

 

「2時間ドラマや単発ドラマの仕事はあったんだけど、所属事務所からも『俳優としての将来が見えない』って言われていて、同ドラマの放送が終了する1988年9月いっぱいで俳優を辞め、マネージャー業や所属事務所の経営の仕事をする予定でいました。だから、俳優人生の有終の美を飾ろうと意気込んで臨んだ作品なんです」

 

二宮修治は、このドラマでW浅野として大人気となる浅野温子の恋人役だった。

 

「すごくうれしかったのだけど……、台本を見たら、5話でいなくなっちゃう(笑)。でもボクにとって最後の作品。それまでのボクは、怒られないように台本に忠実に演じていたのだけど、自分の持っているものをすべてぶつけようって決めたんです」

 

今でも覚えているのは、第1話で、浅野温子をデート終わりに見送るシーンだ。

 

「台本を読むと《暗く見送る修治》とあったのですが、あまりにも温子さんがかわいかったので、暗い表情ができなかった。それでゲイリー・クーパーが映画『モロッコ』でやっていた、人さし指と中指を立てて、敬礼をするように、ちょっとキザなバイバイのポーズをしたんです。『あのクーパーポーズはやめてください』という声もあったのですが、ディレクターの河毛俊作さんが『いや、成立してますよ』と続けさせてくれたんです」

 

5話で消える予定だったが、放送開始直後からテレビ局には『二宮修治を演じているのは誰ですか? 最後まで見たい』『たぶん、温子さんに振られる役だろうけど頑張って!』と、何通もの投書があったという。

 

「アラフォーのかっこよさがある岩城(滉一)さん、20代でみずみずしいモッくん(本木雅弘)に囲まれながら、“キザだけど、照れ屋でちょっと情けない男”というキャラが注目されて、最終回まで出られるようになったんです」

 

そんな偶然と幸運が重なり、石田さんはトレンディ俳優として大活躍するのだった。

 

『抱きしめたい! I WANNA HOLD YOUR HAND』(フジテレビ系・1988年~)

浅野温子、浅野ゆう子がダブル主演を務めた伝説的トレンディドラマ。2人はW浅野として大ブレイク。身につけている服も、2人が暮らす部屋も、劇中に流れる音楽も、圭介(岩城滉一)や純(本木雅弘)との会話までおしゃれ1000%。とにかく“あこがれ”の塊だった。

 

【PROFILE】

いしだ・じゅんいち

1954年、東京都生まれ。1979年、NHK『あめりか物語』ドラマデビュー、『抱きしめたい』のヒット後、トレンディ俳優として一世を風靡した。俳優のほか、司会やキャスター、バラエティ番組出演など幅広く活躍している。

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