「今年9月、政府は閣議で高齢社会対策大綱を6年ぶりに改定し、『後期高齢者の医療費窓口負担3割の適用範囲を現在よりも拡大する方向で検討する』旨を明記。現在、高齢者の窓口負担は多くの人が1割ですが、これを皮切りに2割、3割負担の人が増えることが予想されます」(医療ジャーナリスト)
物価高や年金の目減りなど家計への逆風が相次ぐなか、医療費の支出を抑えることはいっそう重要になってくる。全日本病院協会・診療アウトカム評価事業の’23年度医療費(重症度別)年間集計では、主要がんや急性心筋梗塞、脳梗塞などの重症度別の1入院あたりの医療費が算出されている。最新の統計を見ると、多くの場合重症度が低いほど、医療費の負担が軽くなる傾向にある。医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広さんが語る。
「1カ月に支払った医療費が一定額を超えた場合、超過分が返金される『高額療養費制度』がありますが、入院の場合は差額ベッド代、抗がん剤治療で脱毛した場合は医療用ウィッグなど、医療費以外のお金も必要となります。予防・早期発見に努めることで、身体的な負担ばかりでなく、金銭的な負担も軽減できるのです」
では、各疾病ごとの医療費の傾向や予防・早期発見のポイントを上さん、常磐病院(福島県)医師の尾崎章彦さんの解説をもとに見ていこう。
【胃がん】
医療費はステージが上がるごとに増加するが、ステージIVとなると減少。
「がんの全般的な傾向です。ステージIVとなると、がんが転移することで、手術など積極的な治療を行わないケースが多いためでしょう」(上さん)
胃がん検診は、50歳以上は2年に1回、問診+胃部X線検査、または胃カメラ検査を受けることを厚労省は推奨している。
「胃部X線検査とは、バリウム検査のこと。スキルス性胃がんは発見しやすいといわれていますが、早期の胃がんは胃カメラによる検査が見つけやすいです」(上さん)
予防においては、ピロリ菌の検査が有効だ。
「胃がんの主な原因となるピロリ菌を自分が保菌しているか確認しておきたいところ」(上さん)
胃カメラでピロリ菌感染が疑われた場合、保険診療内で血液や呼吸による検査が受けられる。保菌者は薬によって除菌することになるが、高齢になると除菌ができないケースも。
「医師の指示に従い、定期的に検査することで早期発見につなげましょう」(上さん)
【大腸がん】
「結腸がん、直腸がんに大別される大腸がんですが、胃がん同様、早期の場合は内視鏡で切除ができるため、入院日数も短期になる傾向があります」(尾崎さん)
結腸がんのステージ0の医療費は3割負担で15万9千233円。それがステージIとなると35万5千583円と、2倍以上の金額に。健康診断などの便潜血検査を受けることで、早期がんの50%、進行がんの90%を発見できるというレポートもある。
「家族に既往歴があるなど、大腸がんリスクが高い人は、大腸内視鏡検査も要検討。早期発見できる確率が高まります」(上さん)
【肺がん】
「一般的な肺がん検診はX線検査となっていますが、早期発見は非常に困難であるため、喫煙歴が長い、家族に既往歴があるなど、高リスクの人は低線量CTも考慮しましょう」(上さん)
健康診断で受けられる胸部レントゲンは無料から数百円であるいっぽう、低線量CTでは8千円から2万円ほどと少し高額だ。また、肺がんはほかのがんと異なり、ステージIIIよりステージIVの治療費が高いのも特徴。
「ステージIVであっても、オプジーボなどの期待できる分子標的薬があるからでしょう」(上さん)