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「国民民主党が公約とした、所得税や住民税の支払い義務が生じる税金の壁『103万円』を『178万円』に引き上げることで、手取りが増える期待が膨らんでいます。

 

ところが、そんな期待に水をさすように、11月8日、厚生労働省はパート主婦などが健康保険や厚生年金に加入する『106万円の壁』を撤廃する方針であることが報じられました。

 

これが実施されれば、新たに社会保険に加入して、手取りが減ってしまう対象者が200万人ほど増えることになります」

 

こう指摘するのは、近著に『共働きなのに、お金が全然、貯まりません!』(三笠書房)がある、生活経済ジャーナリストの柏木理佳さんだ。

 

■「週20時間以上」の壁が新たな障害となる

 

「106万円の壁」とは、年収106万円(月収8万8000円)以上、労働時間が週20時間以上、勤め先企業の従業員が51人以上などの要件を満たすと、社会保険に加入する義務が生じるというものだ。

 

「しかし、新たな方向性として打ち出されているのが、年収要件、企業要件をはずし、単に労働時間が『週20時間以上』であれば、社会保険に加入しなければならなくなる制度です」(柏木さん)

 

つまり、年収の壁ではなく「週20時間の壁」が設けられるという印象だ。

 

直近まで「106万円の壁」の企業要件は101人以上だったが、今年10月に51人以上と適用拡大されたばかり。

 

急速に適用拡大が進められている印象だが、これは既定路線だと語るのは、社会保険に詳しい関東学院大学経済学部教授の島澤諭さんだ。

 

「『106万円の壁』撤廃は厚労省が推進してきた政策で、突然降ってわいたものでは決してありません。

 

就職氷河期世代、自営業の夫と死別・離別した単身女性などのなかには、非正規雇用で国民年金しかなく、資産を作れなかった人たちも多くいます。そういった人たちが、年金だけで老後の生活を送ることができないのは明らかです。

 

苦しい状況にある方々にある程度の年金額を保証しようとすれば、企業が保険料を折半する厚生年金の適用拡大が必要になります。

 

ただし、国民年金制度の失敗を厚生年金に押し付けようとする案ですから、企業にとっては人件費負担増となり、人員削減や働かせ控え(週20時間未満)、賃上げの凍結など、人手不足が加速し“適用拡大倒産”が起きる可能性があります」

 

もちろん、適用拡大には年金財政の危機も関連している。かつては1人の高齢者を10人の現役世代で支えていたが、少子高齢化が進み、現役世代2人で支えているのが現状だ。

 

パート主婦にも年金保険料を支払ってもらい、年金制度を維持させたい厚労省の思惑もあるのだろう。

 

では、週20時間ほどのパートをしている主婦の社会保険料負担は、いくら増えてしまうのか。

 

ケース(1)最低賃金がもっとも低い秋田県(時給951円・年収約91万2000円)、ケース(2)これまでの年収の壁(時給1100円・年収約106万円)、ケース(3)最低賃金がもっとも高い東京都(時給1163円・年収約111万6000円)、ケース(4)50人以下の企業で、少し稼いでいる場合(時給1250円・年収120万円)の4パターンを、ファイナンシャルプランナーの内山貴博さんに試算してもらった。

 

「現状、どのケースも週20時間以上の労働になるので、雇用保険が発生します。雇用保険料は、年収に対し一律0.6%で計算しています。

 

税金面に関しては、ケース(1)の場合は所得税も住民税もかかりません。もっとも年収が高いケース(4)であっても、所得税と住民税を合わせても年間3万5000円ほどで、月換算すると3000円程度です」

 

だが「週20時間以上」に社会保険加入義務が生じることになれば、手取りが大きく減ることになる。

 

「ケース(1)~(4)のすべてで、厚生年金の保険料が新たに年間10万円ほど発生し、健康保険料も5万?6万6000円ほど支払わなければならなくなります。

 

こうした社会保険料は控除対象となるので、所得税や住民税の負担が軽減されます。とはいえ、社会保険料の負担があまりに大きいため、日々の生活に影響が出る家庭も多いでしょう」

 

年間手取り額は、適用拡大されることで、ケース(1)で約90万6000円から約75万9000円と約14万7000円もマイナス、ケース(2)で約103万5000円から約88万9000円と、じつに約14万6000円もマイナスになってしまうのだ。

 

一方、社会保険加入対象から外れるため、週の労働時間を19時間にセーブした場合はどうか。

 

ケース(1)では手取り額は年間約86万7000円となり、週1時間、少なく働いているのに、週20時間の労働と比べ、年間約10万8000円も手取り額が増えることになる。

 

同様にケース(2)で約10万円、ケース(3)で約10万5000円、ケース(4)で約10万6000円も増える。

 

物価高が続く日々の生活が厳しく、手取りが減る影響が大きい場合は、労働時間で調整することも一つの方法だ。

 

だが、週20時間以上働き、社会保険料を納めることには、老後資金が手厚くなるというメリットがあると、内山さんが続ける。

 

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