7月18日に公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座 再来』。大ヒットアニメ『鬼滅の刃』シリーズのクライマックスとなる三部作の第一章で、上映時間は155分という長尺ながらも、今回も超ロケットスタートが予想されている。
一部劇場では、同日深夜0時に“世界最速上映”を実施。チケットは平日深夜の発売だったにもかかわらず、わずか数分で完売する盛り上がりを見せていた。さらにファンを驚かせたのは、桁違いな上映スケジュールだ。
東京の大規模映画館のひとつであるTOHOシネマズ新宿では、公開初日の上映回数がなんと40回にも上った。TOHOシネマズ日比谷とTOHOシネマズ池袋は31回で、系列の異なる映画館でも20~30回を超える上映が組まれているところがほとんどだった。
公開から1カ月あまりで興行収入56億円を突破した『国宝』や11日に公開されたばかりの『スーパーマン』を圧倒的に上回る上映数に、SNSでも《尋常じゃない》《気合い入りすぎて面白いことになってる》と話題に。
こうした大規模な上映スケジュールは、’20年10月に公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』でも見受けられた。当時は新型コロナウイルスの影響で大作映画の公開予定日が大幅に延期されたこともあり、ほとんどの大型映画館では“鬼滅一強”となっていた。
だが今回は情勢も異なり、「鬼滅」以外の作品も豊富にあるなかでの大規模な上映スケジュールに。いったいなぜか? 配給側の狙いや、上映回数が多いことのメリットやデメリット、そして観客としてどう向き合うべきなのか、映画ライターのヒナタカさんに解説をしてもらった(以下、カッコ内は全てヒナタカさん)。
「コロナ禍以降、日本だけでなく世界的に、映画作品が“人気シリーズや続編に観客がより集まる傾向”が強まっています。“みんなが観ているから”という理由で作品を選ぶのは健全なことですし、不安定で先が見えない世の中では、せめてエンターテインメントだけでも“間違いない”選択をしたい人が多いのではないでしょうか。だからこそ、ヒットしている映画はさらにヒットする、大ヒットが確定的な映画に上映回数が多く設定されるという流れも、より加速しているのだと思います。しかし、その流れにより大ヒット作とそうではない作品の“格差”をさらに広げてしまうというのも、やはり問題なのかもしれません」
実際に「鬼滅」シリーズのほかにも、『劇場版 呪術廻戦 0』(’21年12月公開)や『すずめの戸締まり』(’22年11月公開)、『劇場版 名探偵コナン 隻眼の残像』(’25年4月公開)といったアニメーション映画は、大規模な上映スケジュールで話題を集めてきた。こうした現象によるメリットについて、ヒナタカさんは言う。
「当然のことですが、作品の上映回数が多ければ多いほど、観たくても観られないという『機会損失』を減らせますし、それでこその記録的な興行収入を目指すというのが、配給側の狙いだと思います。事実、劇場版『鬼滅の刃』や『名探偵コナン』は40回前後の上映回数を用意してもなお、『着席率(座席の数に対するチケット購入枚数)』が他の映画をはるかに上回っています。今回も予約時点で満席に近い回が続出していますから、商業上では真っ当な采配であると納得できます。
また、“時刻表のようなスケジュール”が全面的に否定されているわけではなく、『商売としてはしかたがない』『「鬼滅」や「コナン」には大いに稼いでもらって映画館がうるおってほしい』というような、やや“諦め”や“当然”のニュアンスも含みつつの、肯定的な声もあります。『無限列車編』がコロナ禍での映画館の経営を支えたことも間違いないですし、映画ファンの多くは絶対的に『鬼滅』を敵視しているわけではなく、複雑な感情を持っているのだと思います」
