大興奮をもたらしたマツケンサンバ(撮影:担当編集) 画像を見る

毎年8月終盤の3日間、新宿副都心の一角がメラメラと燃え上がる。それが、「新宿三井ビルディング会社対抗のど自慢大会」である。

 

55階建ての超高層ビル、新宿三井ビルディングの開業間もない1975年から、コロナ禍における3年間の中断をはさんで続くこの催しは、今年で第48回を迎えた。

 

「ビジネスパーソンのフジロック」「摩天楼の麓のコーチェラ」など、さまざまな巨大フェスになぞらえられて久しいこのコンペティションは、ここ10年ほどで、好事家連がSNSで瞬時に拡散する生中継などによって、テナント同士の親睦イベントの域をはるかに超えた人気エンタテインメントへと成長した。テレビやラジオをはじめとした各メディアからの注目度も高まっている。

 

……ということで、2012年から欠かさずこの熱戦に足を運ぶ重度のど自慢アディクトの筆者が、8月27日(水)から29日(金)にかけて行われた今年度の熱戦の模様をここに凝縮してお届けする。

 

そもそも、3日間にわたる会期のうち、水・木曜に行われる最初の2日はあくまでも予選でしかなく、両日から勝ち抜いた精鋭計20組が金曜の決戦に臨むという建付けは、どうにもこうにも単なる素人のカラオケ大会とは思えないスケールである。はっきり言って、常軌を逸しているだろう。

 

そう。初めて現地に駆け付けたオーディエンスの目をひん剥かせるのが、そのスペック。このビルの地下1階部分に広がる屋外空間、「55HIROBA」に設えられるのは、フジロックでいえば、「フィールド・オブ・ヘブン」にも比肩するステージである。

 

つまり、音響も照明もプロ仕様。しかし、その恵まれた環境を、当たり前のごとくアマチュアが自由自在に使いこなす。このイベントでは、そういった奇跡を何度も何度も何度も何度も目の当たりにすることになるのだ。

 

唯一無二の祭典を特徴づける要素のひとつが、壇上のパフォーマーたちに応援団が容赦なく浴びせかける膨大な量の紙吹雪。これが何かといえば、各テナントがシュレッダーで裁断した紙片が供出され、リユースされたものなのだ。巨大オフィスビルならではのユニークな演出といえよう。

 

なお、この大会への出場資格を有するのは、あくまでもこのビルに入居するテナント企業の従業員のみ。各事業者から最大3組までがエントリー可能だ。会社によっては、社内予選の時点において、すでに熾烈な競争が繰り広げられるとも聞く。

 

そして、この催しをマンネリズムから遠ざける秀抜なシステムがある。それは、決勝で一度3位以内に入った出場者は殿堂入りし、その後の5年間は大会に出場できないという厳格なレギュレーション。ゆえに、お馴染みのメンツばかりが上位を独占し続けることはない。新陳代謝が作用し、フレッシュさが保たれるのだ。

 

では、予選の模様からご紹介したい。初日は46組、2日目は47組がパフォーマンスを行った。締めて93組である。今年度は、枠を上回る多くの出場希望が寄せられたため、初の抽選が実施されたというから、近年の盛り上がりは尋常ではない。

 

惜しくも決勝に残ることはできなかったものの、観る者に鮮烈な印象を残したアクトについてさらっていくとしよう。

 

三井ビルのど自慢では、毎年決まって予選初日の一番手を、この大会の運営元でありビルの大家でもある〈三井ビル不動産〉と〈三井不動産ビルマネジメント〉の混成チームが務める。今年は、DA PUMP「U.S.A.」でド派手にその重責を果たした。

 

〈東京ソフトウェア〉は、昨年同様、同社のお家芸と化したケツメイシ「闘え!サラリーマン」を披露。スーツをまとったサラリーマン10名が歌い踊るダンスホールレゲエは、令和の新宿にジャパンスプラッシュの狂騒を蘇らせた。

 

しかし、この会社ののど自慢に賭ける熱量には並々ならぬものがある。本物のケツメイシのライブでは、観客がタオルを振り回すのが習わしとなっているそうだが、この日の開演前、「ケツメイシの出番で、これを振り回してください」と言っておしぼりを配っていたのは、何と同社の若き社長であった(手配されたのは飲食店でよく見るビニール包装のレンタルおしぼりだったので、終演後、律儀に社長が回収に来た)。

 

このイベントを観にやってくる男性ファンが、ここ数年心待ちにしているのが、〈スターバックスコーヒージャパン〉のパフォーマンスである。

 

一昨年、すなわちコロナ禍による中断が明けた初めての大会で、スタバが披露した「ジャンボリミッキー」は、会場全体を沸騰させ、レジェンドとなった。そこには、ミニスカートのうら若き女子たちが飛び跳ねるというアイドル的な訴求力を易々と超越し、人類の生命力の根源にすら思いを馳せさせてしまう実存があった。

 

俺、「ジャンボリ」の予選通過が発表された時、思わず立ち上がってガッツポーズを決め、物心ついてからの数十年で最大級と思われる大声で「来たー!」って叫んだからな。もう、これから死ぬまであんなでかい声出すことはないと思う、たぶん。

 

昨年のYOASOBI「アイドル」(当然最高)を経て、今回、彼女たち8名が挑んだのは、CUTIE STREET「かわいいだけじゃだめですか?」。

 

即答しよう。そんなもの、だめなわけないだろ! かわいいだけでオッケー! 全肯定します! かわいいは正義!

 

ここで、少しだけ筆者のごく個人的な感慨を披歴することをお許しいただきたい。ただでさえ至高たるスタバに、俺好みの真ん中分けのショートボブの子を投入してくるのは反則! 血圧上がって死ぬかと思いました! これぞ会いに行けるアイドル!

 

……取り乱した。ということで、完全に満足し、すっかり燃え尽きたんでこれにてレポートを終えてもいいとすら思ったが、さすがに女性自身はそれを許さないだろう。もう少しばかり、執筆を続ける。まあ、もう少しでは終わらないのだが。

 

ここで思うのが、このイベントにおける群舞の素晴らしさである。とにかく、若者たちが集い、大会当日まで重ねてきた練習の様子を想像すると、脳内には『リンダリンダリンダ』や『櫻の園』といったバックステージ物の青春映画が召喚され、僕の心のやわらかい場所を今でもまだしめつけるのだ。

 

特に、男女混成チームによる溌溂とした躍動を目にしてしまったならば、胸の奥には甘酸っぱい化学成分がドクドクと分泌され、この大会をきっかけに社内恋愛が芽生えているんではないかと勝手な妄想が盛大にとぐろを巻くのだ。

 

今年の予選でいえば、〈東京ソフトウェア〉のいきものがかり「じょいふる」、〈パーソルクロステクノロジー〉のBE:FIRST「Sailing」、〈三井デザインテック〉のNEWS「チャンカパーナ」、〈JTB〉の「ワイルドアットハート」、それから〈三井ホーム〉のSMAP「SHAKE」などに、それを感じた(旧ジャニーズが多いな)。彼ら彼女たちの熱演を見ると、ああ、20代をやり直したいなんて思いに耽ってしまう。

 

今回の予選では、思いがけないアクシデントが勃発した。

 

〈進研アド〉の4人が歌う里「悲しみがとまらない」では、シティポップの精華として再び脚光を浴びるこの曲のオリジナルとは異なるユーロビートっぽいイントロが流れ出したが、カントリーガール風のスカーフを髪に巻いた朴訥な本人たちは動じることなくポーズを合わせ、牧歌的な笑顔をふりまき、客席にかわいらしいメッセージを投げかけている。

 

ああ、これは俺の知らなかったリミックスヴァージョンか何かなのだろうなと思いきや、しばらく経って、彼女たちは司会者のところに駆けつけて何か訴えている。どうやら、間違ったカラオケを流していたらしい。そりゃそうだよな。

 

結局、しばらく出番を遅らせて仕切り直しと相成ったのだが、正しいトラックとともに彼女たちが登場した瞬間、あったまった聴衆から、地鳴りのような大喝采が上がった。結果オーライである。微笑ましい限り。

 

〈ウェブスター〉の久保田早紀「異邦人~シルクロードのテーマ~」には、新機軸の萌芽を見た。扇子にシルクの長い布を取り付けたファンベールという小道具(ベリーダンスではよく使われるらしい)を両手ではためかせながら歌う。エキゾティックこの上ない新機軸である。

 

ただ、演舞の方に専心するあまり、スタンドマイクとの距離が時に遠ざかってしまい、アウトプットされる声量が安定しなかった。今後はインカムを使う方がいいだろう。来年以降の進化を見届けたい。とりあえず、次回はジュディ・オング「魅せられて」を歌っていただきたい。

 

その他、〈アフラック生命保険〉の宇多田ヒカル「First Love」、〈コネクティ〉の鬼束ちひろ「月光」、〈あとらす二十一〉の星街すいせい「ビビデバ」などは、予選を通過できなかったことが不思議なほどの名唱であったと書き残しておこう。

 

なお、予選では尺の都合上ワンコーラスのみだが、決勝ではフルコーラスを歌い切ることができる。そのため、決勝においては、予選の段階では見せることのなかった新たな展開が繰り広げられることがある。これもまた、三井ビルのど自慢の醍醐味なのだ。

 

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出典元:

WEB女性自身

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