11月20日、漫才日本一を決める「M-1グランプリ2025」の準決勝に進出する30組の芸人が発表された。
準決勝に残った30組には、昨年の決勝に出場した「真空ジェシカ」「エバース」「ヤーレンズ」「ママタルト」などが今年も進出する一方で、決勝出場歴がある「オズワルド」「ダンビラムーチョ」「ちょんまげラーメン(旧:インディアンス)」などベテラン勢が次々と敗退する波乱も。
また、これまでの最高成績が3回戦以下だった新進気鋭の若手が6組入るなど新陳代謝も進み、Xでは期待する声も続出している。
《戦国時代M-1って感じで超楽しみ!》
《今年のM-1波乱すぎる!!!!》
《ハマる芸人さん発掘年かも知れない》
一方で、《今年他事務所多いな~》《思いのほか非吉本が多かった!》などと、お笑い界で最大勢力を誇る吉本興業に所属していない“非吉本”芸人が過去最多の13組となったと指摘する声も目立った。
そこでお笑い評論家のラリー遠田氏に、“非吉本”が過去最多となった背景について解説してもらった。ラリー氏は「選ぶ側は事務所を意識して選んでいるわけではないので、大きな意味ではたまたま」だと前置きした上で、ここ数年の傾向として「ちょっと東京が有利になった」と言われていることを挙げた。
M-1では、’01年~’10年の第1期と、’15年から再開された第2期で予選の最終関門である準決勝の開催場所が変わった。第1期の準決勝は原則として大阪と東京の2箇所で行われていたのに対し、第2期から準決勝の開催場所が東京だけに変更された。それが非吉本勢の好調につながっている可能性があるという。
「普段は大阪で活動している芸人も、準決勝では東京の会場で一発勝負をしなければいけません。慣れていないアウェイの環境で漫才をやることになるし、お客さんの雰囲気も変わります。大阪の芸人は自分たちのことをよく知らない人の前に出てネタをやらないといけないので、普段から東京で活動している芸人に比べるとやや不利になります」
準決勝までは大阪と東京それぞれで予選が行われているとはいえ、準決勝は東京でしか行われていないため、そのことが大阪勢に不利に働いている可能性はあるようだ。
「実際に、過去5年のチャンピオンを振り返ってみると、マヂカルラブリー、錦鯉、ウエストランド、令和ロマンは全員が東京勢です。しかも、そのうち錦鯉とウエストランドは非吉本です。
東京にはいろいろな事務所がありますが、大阪の芸人は大半が吉本所属です。だから、大阪芸人が不利になるということは、結果的に吉本芸人が不利になるということでもある。『M-1』予選の“東京シフト”によって、相対的に吉本芸人が苦戦を強いられているのかもしれません。
たとえるなら、吉本は大阪だけで圧倒的に強い日本維新の会のようなものです。かつての“M-1選挙”では大阪に1議席、東京に1議席あったところが、今は東京に2議席になってしまった。そうなったら当然、地域政党には不利になるということです」
また、ラリー氏は「事務所が複数あることで競争が起きて、多様性が生まれる」といい、“非吉本”化の背景に近年の漫才の価値観の変化もあげる。
「昔は漫才って関西のものというイメージが強かったんですよね。第1期の頃は、笑い飯とかフットボールアワー、中川家、ブラックマヨネーズなど、関西弁でキレのいい言葉でやり取りする漫才こそが“王道の漫才”という認識が世間にもあったし、当時のトレンドもそういう感じでした。
しかし、第2期M-1の時代になってそれも少しずつ変わってきました。良くも悪くも何でもありになったというか、正統派の漫才じゃないと勝てないということはなくなってきました」
第2期が始まった’15年に優勝したトレンディエンジェルを例にあげ、「いわゆる伝統的なしゃべくり漫才とは全然違う」といい、以降は「新しいものを見せてくれた人」が年々勝ちやすくなっている傾向があるという。
「だからこそ、’20年にマヂカルラブリーが優勝したときに“こんなの漫才じゃない”などと批判する人が出てきたのです。視聴者側の見方も変わってきたし、審査員も年々若返っています。
第1期はベテラン審査員が多かったですが、第2期ではある時期から上沼恵美子さんとオール巨人さんが審査員を降りました。そこから審査員の平均年齢も下がり、伝統的なしゃべくり路線とは違う現代的な漫才が受けやすくなってきて、流れが変わった感じはします」
ラリー氏は、「トレンドは時代が決めるもの」で伝統と革新に優劣はないというが、「今のM-1は“何か新しいもの”を見せてくれたという感じが受けやすくなってる印象」だと指摘する。
「お芝居の要素があるコントと違い、漫才はお客さんに語りかける形です。生の言葉なので、その時代の空気とか、今みんなが何を面白いと思っているのかとか、そういう感覚を掴んでいるかどうかが結構大事なんです」
吉本一強の時代から多様性の時代へと形を変えたM-1。今年も波乱の予感がする。
