ダイエット目的の“痩せ薬”として誤用されていることが、社会問題化しているマンジャロは、週1回患者が自身で皮下注射する2型糖尿病治療薬(糖尿病の95%が2型)だ。
最近では、自由診療で美容外科がダイエット目的で処方したり、精神科医が患者に処方したりするケースが度々報じられている。社会部記者が言う。
「糖尿病治療以外に使用することは安全性や有効性が確認できていないため、厚生労働省は6月、医療機関に適正な使用を呼びかけるように自治体に通知を出しました。それに加え、日本美容外科学会や日本精神科病院協会などの医療団体にも注意を促すなどの事態に発展しています」
マンジャロとはどういう薬なのか。また、どういった副作用が出るのか。さいしょ糖尿病クリニックの税所(さいしょ)芳史院長が解説する。
「マンジャロは2型糖尿病の治療薬で、高い血糖値降下作用と体重減少効果があります。
血糖値を下げる薬ですが、大きく2つの作用があり、その1つとして膵臓からのインスリン分泌を高めます。その結果、血糖値が下がります。もう1つの作用は、胃腸の動きを抑えることです。それにより食欲が落ちることで、食事の量が減り、体重も減るのです。ただ、副作用として吐き気、嘔吐、胸焼け、便秘や下痢などの消化器症状が起こりやすい薬です。我々の経験上、7、8割の方は吐き気を催します。実際に嘔吐までしてしまう方は1割くらいです」
美容外科でも精神科でもなく、糖尿病の専門医から処方された2型糖尿病患者が、マンジャロによる強い副作用に悩まされたケースを取材した。
関東地方在住の60代男性Aさんは、2021年から2型糖尿病の治療を専門医の指導のもとで始め、毎日4回、インスリン注射を自ら打っている。Aさんは2022年にがんになり、抗がん剤治療や放射線治療などを受け、2026年2月に寛解した「がんサバイバー」でもある。
2026年5月下旬、糖尿病の定期健診のため主治医のもとを訪れた際、BMIの数値が30以上の肥満体型のAさんはこう指摘された。
「体重を少し落とした方がいいんじゃないか」
そして勧められたのがマンジャロだったという。使用する際の注意点や副作用については、医師から「ちょっと吐き気を催す人もいます」と言われただけだった。
これまでAさんは、抗がん剤や新型コロナワクチンなど、どんな薬でも副作用が出たことが一切なかったため、その程度なら大丈夫だろうと思ったという。マンジャロは週に1回、自分で腹部などに打つのだが、その日に4本処方された。
Aさんが初めてマンジャロを使用した日には、これまでと同様にインスリンを4回打ち、そして寝る前にマンジャロをおヘソの辺りに1本打って就寝した。「今後は、マンジャロと併用しながら、インスリンの量を減らしていきましょう」と医師から提案されたという。糖尿病治療では一般的に行われている治療法だ。
翌朝は普段と変わらず、朝食を摂った後に外出。昼食は天丼を食べたが、しばらくすると胸焼けのような症状を覚え、お腹のあたりがムカムカしてきたという。
「お腹が張り、食べたものを消化できていないような感じでした。ムカムカがしばらく続き、食欲がなかったため、そのまま床に就いたところ、夜11時ごろに急に吐き気を催し、大量に嘔吐しました。さらに数時間後、再び大量に嘔吐しました。2回も吐いたので、これでもう収まるだろうと思っていたのですが、大きな間違いでした」(Aさん)
医師が説明した「ちょっと吐き気を催す人もいます」どころの騒ぎではなかった。
3日目の朝、食欲がなかったため、何も食べずに待ち合わせ場所に出かけ、昼過ぎ、出されたお茶を飲んで1時間くらい経った頃、気分が悪くなりトイレに駆け込み、嘔吐した。その後、喫茶店に移動し、打ち合わせをしていたところ、急に吐き気が襲ってきた。その前もむかつき感があり、胃の辺りに違和感があったという。トイレに間に合わないと思ったAさんは、一直線に店の外に飛び出した。
「道路に滝のように吐きました。もう固形物は残っていませんでした。この時は『死ぬかも』と一瞬思いました。吐いても吐いても収まらなかったのです。道路上で吐いた後、うずくまっている私を見た打ち合わせ相手の方もビックリしちゃって。『救急車を呼びましょうか。病院へ同行しましょうか。休んだほうがいいですよ』と心配してくれて。吐いた後は、一旦ムカムカ感も収まり、とりあえず大事をとって早めに帰宅しました。マンジャロは自分には合ってないと確信しました」
さすがにおかしいと思い、医師に電話すると「たぶん、副作用だと思いますが、もうすぐ収まってくると思いますから」と告げられた。この日はもう食欲がなかったため、何も食べず水分だけを補給。しかし、夜も嘔吐した。その後もムカつきが続き、あまり眠れなかったという。
4日目も食欲が出ずに、水分補給だけをして、夕方に病院に行った。すると主治医は、「もう、これはやめておいたほうがいいですね」と一言。脱水症状を起こしていたこともあり、点滴を打って、吐き気止めと整腸薬が処方された。
また、医師からは「そろそろマンジャロの効き目もなくなってくるので、副作用もなくなり、体調も良くなってくると思いますよ」とも言われ、少し安心したという。
「体がだるくて……。3日目には下痢の症状も出ました。胃の辺りの痛みもありました。暑いのに、お腹を温めていました。症状が和らぐので」(Aさん)
5日目の朝は、前日に医師から「何か食べたほうがいいですよ」と言われていたため、バナナを食べ、ポカリスエットなどを飲んだ。体重を計るとマンジャロを注射する前よりも4kg減っていた。
6日目の朝には菓子パンを食べたという。吐き気止めを服用していたため、ムカつきは収まった。この間、インスリンはバナナやポカリなど、糖分を摂取したときのみ打った。
「医師は体調が戻ると言っていましたが、食欲がまったく出ず、胃が食べ物を消化している感じがなく、ムカつき感も収まりませんでした。そのため、食べたのはバナナくらいで、経口補水液などの水分補給だけでしのぎました。9日目までは、ホントに食欲がなくて、食べる気がしませんでした。こんなことは初めての経験です。そして、10日目になってやっと少しずつ食欲が出てきました。ようやく2週間後に普通の食欲に戻り、食事ができるようになりました。もう、コリゴリです。こんなに酷い副作用が出るのなら、事前にもうちょっと説明して欲しかった」(Aさん)
Aさんの酷い副作用はなぜ、起こってしまったのだろうか。Aさんの症状を聞いた税所院長が解説する。
「私たちは必ず患者さんに対し、『ムカムカするけれども、薬によって食欲が落ちるという1つの効果でもあるので、そういうつもりで使ってください』と言うようにしています。多かれ少なかれ副作用は起こるものという前提で使っていただいています。副作用は人それぞれですから、使ってみてから様子を見ていくのです。
ですから、まず一番少ない量で薬を始めて、様子を見て増やしていくことになります。今ニュースなどで話題になっていますが、一部でダイエット用の“痩せ薬”として医師の指導を受けずに、自由診療などでいきなり多い量で始めたりして、酷い副作用の症状が出たりするということになっています。Aさんのケースはかなり酷かったと思われます」
副作用のあるマンジャロだが、税所院長は糖尿病治療薬としての有効性もつけ加えた。
「マンジャロという薬は、血糖が下がりすぎて低血糖が起こることがない薬であり、安全性は高い薬です。今ある糖尿病の治療薬としては、最も効果的な薬のひとつだと考えています。
ただ、基本的に副作用として消化器症状が出てくるので、そこに注意しながら使う必要があります。結果的にAさんの場合は、事前の主治医の説明と、油物を避け、少量ずつ小分けに食べるといった、使用後の食事の対応がちょっと足りなかったのではないかと思います」
マンジャロを使用する際には、医師の指導のもと、十分な注意を払わなければならない。
画像ページ >【写真あり】Aさんが処方されたマンジャロ(他1枚)
