第9話 不可解な行動

2010 年3月は、忙しい月だった。まず、母が、とても大切に考えているお彼岸が、あったからだ。実は、私は、母がお墓参りに行けるのかどうか、大いに疑問を抱いていた。

image毎年元旦には、妹一家と一緒に関口家のお墓参りに行った後、お不動さんにお札を受けに行くのが恒例になっている。しかし、今年は、母は、自分の部屋に引きこもり、起きて来なかった。仕方ないので、母なしで妹一家と息子を連れてお墓参りとお不動さんに行く、という経緯があったからだ。

関口家の墓は、横浜公営の墓地にある。高台からみなとみらいが、一望でき、無数にある墓石を眺めるのは、圧巻だ。私は、いつもここで自分のこの世の終着点について思いを馳せる。大好きな場所の一つだ。だから私の映画にも度々登場する。今回で3回目!

imageただ、わが家には、<関口家>と呼称されるお墓が、二つある。本家と分家、というほどでもないが、分家の方には、私が大好きだった叔父が、一人で入っている。現在は、すでに再婚した叔父の妻が、墓守りをしている。母は、この叔父の墓参りを欠かしたことがない。問題は、この叔父のお墓の場所だ。

坂道を下り、舗装されていない階段を下りて行かなければならない。母は、今まで仏花を2組とお線香も2組、更にはバケツに入った水も持って墓参りをしていたのだろうか。とても信じられない。

それでも、母は、今年のお彼岸も一人でお寺とお墓参りに行く、と言って聞かない。どうにかこうにか母を説得して、母娘二人で行くことにした。

image母は、お寺から墓地までトコトコ歩いたが、墓地では、何回も休んだ。ああ、あんなに大切にしていたお墓参りも大儀になっているんだなあ、お盆や、秋のお彼岸は、もう無理かも知れない、と思った。

母は、朝晩に仏壇へお灯明やお供物、そして念仏も唱えているので、お寺やお墓には、私が行けばいいんじゃないか、自然にそんな風に思えた。

今の母、そしてこれからの母は、色々なことが出来なくなるのは、当然だ。騒ぎ立てず、映画のように上手にファイドアウトさせて上げたいなあ、と心底思う。

問題は、お彼岸の入りの2日目にお坊さんが、家にやって来ることだった。前の晩にそのことを母と確認したが、当日は、すっかり忘れていた・・・

 

ドキュメンタリー映像作家 関口祐加 最新作 『此岸 彼岸』一覧

 関口家でも使っている、家族を守る”みまもりカメラ”

 

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