第33話 母のこだわり
母には、とても強い<家に対する>執着心が、ある。
インタビューの中でも、私に対して「ここは、自分の家と土地なのだから、誰に気兼ねする事もない。」と言い切った位だ。
自分の家を持つこと — まさしくアメリカン・ドリームの体現のような感じだが、オーストラリアでも家を購入する事は、人生の一大事であり、夢の実現だ。
同じく、母にとっても人生の一大事だったんだと思う。
明治生まれの母の両親は、生涯自分の土地も家も持つことが、なかった。祖父母が、借地に住んでいた家は、米屋に嫁いで比較的裕福だった母と母の姉の二人が、建てたものだ。
質素だったけれど、小さな庭がついている平屋の家は、とても機能的で子供だった私は、祖父母が住んでいた堀ノ内に行くのが、大好きだった。
でも、母や伯母は、自分の親のようになりたくない、と考えたらしい。6人兄姉の中で、土地も家も(2階建て!)所有出来たのは、母と伯母の2人だけだった。
そう、家と土地は、2人の誇りであり、プライドなのだと思う。
一方、生まれながら一戸建ての家に住んできた私や妹には、母達のような家や土地に対する執着は、ない。
私は、オーストラリアでは、セミ(SEMI)と言われる1戸建てを半分ずつ共有する借家住まいをしたことがあるが、他は、すべて、アパート住まいだった。
利子の高いオーストラリアでホーム・ローンを組み、家を購入するほどオーストラリアに対して入れ込んでいなかったのか、と今になって思う。いや、そもそも私の映画監督としての収入では、ホーム・ローンなんて組めなかっただろう。
母は、自分の家も建てられない、そんな私と妹をふがいなく思っているらしい。
他には、母の強い執着心は、ガム・テープに表れている。いつ頃から母は、ガム・テープに執心するようになったんだろう?
長年に渡って、オーストラリアにいる私に荷物を送る際、ガム・テープを使ってきたことからだろうか?
家中が、ガム・テープで補強されている!!
最初は、かなり驚いたが、今では、私も慣れっこになり、むしろ、感心してしまう。
さらに、認知症の症状が、顕著になってから、母のご執心には、他のモノが、加わった・・・
2010.11.27 (土)更新予定!<動画32:アルツハイマー病の母のこだわり>
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