東京に戻って見えた赤坂御用地と青い空

新年、明けましておめでとうございます。みなさんにとって、幸せあふれる一年になることを祈ります。

 

私は昨年末、日本に戻りました。海外では極力孤独な時間を作って読書や執筆など「自己省察の時間」を大事にする私ですが、日本ではできるだけ外に出かけて友人との食事や対話など「社交の時間」を大事にするようにしています。この周期の循環は、両者の価値を高める役割を果たします。社交の時間が続くと孤独の時間が欲しくなり、孤独の時間が続くと社交の時間が欲しくなる。良くも悪くも、人間は飽きっぽくて気まぐれな生き物だとつくづく思う今日このごろです。

 

さて新しい年が始まると、希望や期待だけではなく不安や心配も増えます。特に年をとっていくと健康や仕事、家族、金銭などの問題が襲いかかってきます。そういうときに人は苛立ちを覚えたり落ち込んだりするもので、そこからどう抜け出すのかが生きるうえでとても重要です。そこで今回は、私が心掛けている苛立ちや落ち込みから立ち直るための方法をご紹介します。

 

まず苛立ちを覚えたときは少しだけ肩の力を抜いて肩の高さを低くし、少しだけゆっくりと深く呼吸しましょう。何もかも忘れ、一分でもいいので呼吸に神経を集中させるのです。不幸というのは結局のところ、息をしていることに対する感謝の気持ちを忘れたときに訪れるものです。

 

生きていると、ネガティブなエネルギーがぶつかってくることがあります。何をしても上手くいかないように感じる。そういうときは環境を責めず、過去を責めず、他者を責めず、そして自分を責めないようにすることです。苦しみの根源は外にではなく、何かを許していない自分自身にあるということも忘れないでほしい。許すことで、手放すことで、ネガティブなエネルギーは逃げ、穏やかな心が戻ってくるはずです。

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そして人生で出会うすべての人に、一期一会の気持ちで感謝と親切心で接しましょう。ポジティブなエネルギーも、ネガティブなエネルギーも伝染力がとても強いものです。汚れた水が入ってきても綺麗な水に変える「心の浄化器」を持ち、何気ない風景からも美しさを見いだせる「心の万華鏡」を持ちましょう。目指すは「ポジティブ・オーラの起点になり、ネガティブ・オーラの終点になる自分を創り上げること」です。

 

「光の多いところには強い影がある」というゲーテの言葉があります。落ち込んで気持ちが暗くなったときは「実は光を浴びている証しなんだ」と捉えると気持ちを切り替えられると思います。落ち込んでいるとき、理性はあまり役に立ちません。そういうときは自然の力を借りましょう。自然はいつだって我々の味方です。太陽や月を楽しめる人間は、余計な心配は抱かないものです。一日のうち昼に一度、夜に一度は空を見上げ、太陽と月をじっくり眺める時間を持つこと。そうすることで気持ちが明るくなっていく気がします。

 

最後に生き急がないこと。人生にはあえて一歩遅らせることで、結果的に二歩も三歩も前進するきっかけになるときがあります。焦る気持ちがあったり感情的になっていると感じたときは、他者とのコミュニケーションを極力取らず、最終判断を留保する。間をおくことは、自分への信頼をもたらしてくれます。自分への信頼は心の余裕をもたらし、心の余裕は穏やかさをもたらし、穏やかさは理性的な判断をもたらしてくれます。

 

凪のような心で愛情と感謝の気持ちを持ち、踏み出す一歩一歩を心から吟味できるような年にしたいものです。

 


ジョン・キム 吉本ばなな 「ジョンとばななの幸せって何ですか」(光文社刊・本体1,000円+税)

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吉本ばなな

1964年東京生まれ。’87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。’88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、’89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、’95年『アムリタ』で紫式部文学賞、’00年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞をそれぞれ受賞。海外でも多くの賞を受賞し、作品は30カ国以上で翻訳・出版されている。近著に『鳥たち』(集英社刊)、『ふなふな船橋』(朝日新聞出版社刊)など。

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