いまタクシー業界に、新卒採用の波が起きています。国際自動車や日本交通など業界大手を中心に新卒採用を大幅に増やしていて、中には100人以上の新卒者を採用した会社もあるほど。売り手市場と言われている近年の新卒就職市場でこれほどの採用が生まれている理由は何なのでしょうか。今回はこの問題を掘り下げたいと思います。
タクシー業界というと、どんなイメージをお持ちでしょうか。日本のタクシーは諸外国と比べて圧倒的に綺麗で、ドライバーのサービスも丁寧だと個人的には思っています。しかし一方で初乗り料金は先進国の基準よりも高く、ドライバーの高齢化もかなり進んでいるのが現状です。日本のタクシードライバーの平均年齢は、約58歳。日本の一般企業の平均年齢が約35歳ですから、他業種に比べてかなり高齢であることがわかります。しかしタクシー業界に新卒の就職先というイメージはほとんどなく、中途採用が一般的でした。そこで若年層の採用を促進し、高齢化に伴う問題を解決したいというのがタクシー会社の狙いなのです。
理由のもう1つは、タクシー業界全体が抱く危機感にあります。小泉政権時代の02年、業界への新規参入や増車が原則として自由化されました。結果、タクシー台数は増え競争が激化。売り上げ低迷にあえぐタクシー会社が続出するようになりました。ある統計によると、タクシー業界全6456社のうち約6割が赤字経営とのこと。抜本的な経営改革なしに市場競争を乗り越えていくことは、難しいように思います。また最近ではアメリカ発祥のタクシー配車アプリサービス・Uberが日本に上陸するなど、既存のタクシー業界をめぐる経営環境は深刻であると言わざるを得ません。
話を若年層ドライバー採用に戻します。売り手市場にいる新卒たちは、当然ながら就職先を選ぶ際の基準も厳しくなるはずです。やりがいのある仕事、将来につながる仕事、休みが取れる仕事、労働環境が劣悪ではない仕事、給料が高い仕事などの基準で就職先を選ぼうとします。それに今のタクシー業界がどれほど応えられるかが焦点になりますが、実は、タクシー会社にはかなり魅力的な労働環境を提供しているところもあります。
例えば「休暇の多さ」が挙げられます。日本のタクシードライバーは過酷な労働環境下で働いていると想像されがちですが、それは偏見です。業界最大手の国際自動車の場合、従業員は朝から夕方まで働く「日勤」と、夜から朝まで働く「夜勤」、1回の勤務で2日分働く「隔日勤務」の3種類から勤務形態を自由に選べるのです。「隔日勤務」を選ぶ場合は、月に3連休を2回取れるとのこと。月の平均勤務日が11日になる場合も多いらしく、イメージよりも休暇が多いことがわかります。
また「給料の高さ」も売りの1つです。ドライバーの給料は基本給と売り上げに応じた成果給で決まるので、頑張った分だけ稼げる仕組みになっています。厚生労働省によると、15年の大卒初任給は20万2000円。年収にすると300万以下です。しかしタクシードライバーの場合、年収400万円台は普通。頑張り方次第では同級生の倍の給料を手にすることも可能というのですから、若くて意欲のある人に向いている職種であると言えます。
今年10月末の段階で訪日外国人観光客が初の2000万人台に達したというニュースがありました。また20年には東京オリンピックが開催されます。このようにタクシー業界を取り巻く環境は、悪い要素ばかりではありません。もしドライバーの若返りを通じた人材不足解消や外国語対応などサービス向上を実現できれば、その会社は必ず消費者に選ばれ続ける会社になると思います。