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人間は、広い世界のほんの一部で生きている。
全てを知ることはできない。
世界のどこかには、自分の知らない何かを熱狂的に愛してる人がいる。研究する人がいる。
そんな人が集まると、小さなブームになる。
誰かの世界を、少しだけ覗いてみちゃおう。
それが「うさこの覗いた世界」なのだ…!

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痛○○――それは日本の誇るオタク文化が生んだ最強のファッションである。
身近なものを好きなキャラクターで埋め尽くす。

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缶バッヂをジャラジャラ付けたり、存在感のある大きなステッカーを貼ったり、
ぬいぐるみを付けたり…とにかくそのキャラが好きであると全力でアピールするのが痛○○だ。

 

オタクの愛溢れる痛○○業界に、新たな文化が参入した。
その名も“痛バルーン”…!
バルーンでプードルなどをみるみるうちに作ってしまう大道芸人を街や遊園地で見かけることがあるが、
なんと愛すべきキャラクターをバルーンで作ってしまうという。
バルーンで本当にそんなことができるのか…?

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出来てる…!!
確かにこれは紛うことなき美少女戦士セーラームーン…!
シルバーウィークはこの痛バルーンをさらにバージョンアップした痛バルーンファッションショーが行われると聞いて、
大阪の天神橋筋四番街商店街に直撃した。

 

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楽屋にお邪魔すると、明らかに異質ななにかが…!

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そう、今はまだポリ袋という名の神秘のヴェールに包まれしこれが本日の主役“痛バルーンドレス”なのだ!!
「これで電車に乗ってきました」というのは世にも珍しい痛バルーンアーティストのパフォーマーももさん。
今回の痛バルーンドレスも彼女の作品だ。

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どなたか何名もお顔が透けて見えているこれを運んで…!
もしわたしが同じ電車に乗り合わせていたら間違いなく三度見くらいしてたことだろう。

その未知なる「痛バルーンドレス」は、
モデルさんたちが着ると凄まじい魅力を発揮した。

 

ひとつは、“魔法少女ドレス”(着用:濱口ハンナさん)。

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先ほどのセーラームーンやクリーミーマミなど女子は誰もが通った魔法少女たちがそこやかしこに敷き詰められたこのドレスは、
バルーンという最高のワクワクと共にあの頃の憧れや夢を思い出させてくれる。

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もうひとつは“鉄道ドレス”(着用:鉄道アイドル簪こまちさん)。

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誰もが知っている地下鉄の路線図が、まさかのバルーンドレスに!!
一見不可思議な模様が、謎が解けた瞬間「これここだ!」「ここが天王寺なら…俺んちここ!」と
ついつい探検家になってしまうこと間違いなし。

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な…なんてかわいいんだ…!!
雑多な街角とバルーンにしか出せないつやつやしたポップなカラーがここまで映えるとは…。
彼女たちは日本で一番長い天神橋筋商店街を練り歩き、道行く人々の視線を釘付けにした。

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作品愛に溢れた“痛○○”でありながら、作品を知らなくても親しみやすく、ポップでかわいい、老若男女すべてをワクワクさせるのがこの“痛バルーン”なのだ。

 

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イベント前日の夜22時から作り始め、9時間かけて出来上がったというこのドレスたち。
「時間が経てば萎む」というバルーンの特性を考えれば当然、
このキャラクターたちやドレスも時間が経てばしおしおと萎んでいってしまう。

 

なぜ、これだけ様々なグッズがある中あえて限りある「バルーン」を選ぶのか?
ももさんに話を聞いてみた。
「わたしはもともと大道芸をやっていてバルーンアートに出会い、“これって、もっと作り込むことができるんじゃないか?”と思い、こうしたキャラクターの“痛バルーン”を作り始めました。
“風船は萎むもの”と皆さん知ってらっしゃるので、“これいつかきっとなくなるんだろうな”っていうのに価値があって。
“今だけしかこれを見ることはできないんだ”と、強く感じることができるんです。」
ずっとそこにあるものに対しては慣れてしまい喜びや感謝が薄れていくもので、
「なくなる」ということを意識するからこそ芽生える感情もある。
だからこそ、バルーンなのだ。
「有終の美」という言葉があるように、散り際の桜が一番美しいように
「終わりを看取る」というのが、最大級の愛の形なのかもしれない。
中には萎むさまを見届けたあとジップロックという名の棺に入れて保管するファンもいるらしい。
ももさんはというと。
「イベントや個展が終わったときは持って帰るときもありますが、大概が破って捨てます(笑)
私にとっては この作品、というよりは風船、として見ているので“また会おうね!”と言う感じです。」
イベント後、そう笑いながらハサミと指を駆使しながら風船を引きちぎっていたももさん。

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そこに切なさや悲しさは一切なく、
未来を見据えた強さが込められていた…。
 
作って、壊す。そしてまた作る。

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ここまで生死を見届けられるアートをわたしは知らない。
世界よ見ろ、これがアートの屍だ!!

 

そんな強さ成分ゼロの、大切なものはずっと取っておきたい派のわたしは
6月に取材に行ったときにいただいた深海生物ダイオウグソクムシバルーンを今なお大事に取ってある。

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3ヵ月の時を経て、今では立派な「ダイオウグソクムシだったはずの何か」だ。
イベント後に救出したセーラームーンと魔法騎士レイヤースもいずれこうなる運命と分かってはいるが、わたしはそばに置いておこうと思う。
完全に萎みきるその日まで…。

 

パフォーマーももさんについて詳しくはこちら↓
http://mps-momo.go1by1.com/
「痛バルーンファッションショー」は天神橋筋四番街商店街にて9/18~20開催。
シルバーウィーク後半は石切参道の「いしきりん乱舞in石切参道」に出演し、大忙しだったようだ。

米原千賀子

ライター兼イラストレーター。へっぽこな見た目とは裏腹にシビれる鋭いツッコミで世の中を分析する。人呼んでうさこ。常に今日の夜ごはんのことを考えている食いしん坊健康オタクな一面も。webマガジンNeoLなどで連載中。

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