人間は、広い世界のほんの一部で生きている。
全てを知ることはできない。
世界のどこかには、自分の知らない何かを熱狂的に愛してる人がいる。研究する人がいる。
そんな人が集まると、小さなブームになる。
誰かの世界を、少しだけ覗いてみちゃおう。
それが「うさこの覗いた世界」なのだ…!
先日わたしは台湾を訪れた。
台湾といえば…
小籠包!! マンゴー!! タピオカミルクティー!!
数々の美食がわたしたちを出迎え、たんと太らせて帰らせる魅惑の国である。
屋台でもお店でも、円安の今でさえ「こんなに安くていいんですか!??」というようなお値段でおいしいご飯が食べられる。
例えば、こちらの肉燥飯(刻んだ角煮を乗せた丼的なもの)は1杯約120円。
やさしめ味のほろほろお肉に、とろっとした脂身…。たっぷりかかったおつゆがご飯までおいしくさせる…。
シンプルながら飽きさせない味わいに、もう箸が止まらんぞ状態にさせられてしまうのが
台湾フードなのである。
人気店の前にはよく行列ができているが、
台湾第二の都市・高雄の一角で賑わっている店を発見。「印度Q餅」の店だという。
日本語に訳すと「インドもちもちケーキ」…すごく気になる。
わたしは一緒になって並んでみることにした。
番号札をもらって待つこと30分。
30分…!結構な行列である。
ようやっとわたしの元に印度Q餅が…!
ナンに似てるといえば似てるけど
生地に卵を混ぜ込んで焼く、不思議なたべもの。
小皿にさらっとしたスープのようなカレーをつけて食べるカレー味と、
大胆に缶から練乳をドバドバかけてくれる練乳味の2種類がある。
いざ実食…。
焼き立てさくさくの印度Q餅。
練乳のやわらかい甘さと卵のまろやかさが未体験のハーモニーを生み出している。
感動するのはカレーの台湾スパイス味っぷりだ。
台湾といえば空港に降りた瞬間から台湾らしい香りが立ち込めるほどスパイスを多く使う国である。
八角、五香粉、花椒など定番スパイスは数知れない。
それが今、カレーの中から香る。
なるほど…。日本のカレーがジャパンオリジナルなように、台湾でもこうやって海外の料理が台湾ナイズされているわけだ…。
そこである疑問が浮かぶ。
「それじゃ、日本料理は台湾でどうなっているのか!?」
ここで、日本料理 feat.台湾 を探す旅に出たのである。
まず1軒目は“御前抹茶”。
台湾第二の都市・高雄に2店舗、香港に3店舗構える超絶人気抹茶店である。
オシャレな店構えに、店内に飾られる絵馬。
メニューも「究極抹茶霜淇淋(ソフトクリーム)」「究極抹茶聖代(サンデー)」と本格的で……
……
「抹茶那提豆腐飲」…?
突如日本では見ることのない抹茶スイーツに思わず二度見する。
いやいや、抹茶豆乳的なことだよね…?と一瞬浮かぶが、
頼んでみるとタイトルの通り抹茶ミルクの中に豆腐がぶち込まれた代物がやってくる。
抹茶ミルクのほのかな甘み…
時々口に飛び込んでくる豆腐…。
大豆感薄めに作られたもちもち食感の豆腐は、意外にも抹茶に合っておいしいが、
時々口に広がる大豆フレーバーに「あれ…これ…豆腐だよね…?」と我に帰れて楽しい。
人生でまさか豆腐を飲む日が来るとは思わなかった。
日本の伝統的な「豆腐」「抹茶」が、一緒に食べてもおいしいなんて…。
固定概念がないからこそ切り開ける「新しい可能性」もある。
日本の外から、新しい日本を発見だ…!
と、キラキラした気持ちで街を歩くわたしを迎え撃つ、凄まじい店を美食の街・台南で発見する。
Hot Sushi。
「ホット」「スシ」という決して混ざり合ってはいけない単語が堂々と並ぶ料理は、一体どんなものなのか…?
潜入を試みる。メニューを見ると、
「和風章魚焼(和風たこやき)」「蘋果馬鈴薯(リンゴとジャガイモ)」「橙汁鳳梨蝦(オレンジジュースパイナップルエビ)」とさらに混ざり合ってはいけないものがズラリ。
わたしは「和風たこやき」と「リンゴとジャガイモ」をチョイスした。
「和風たこやき」は、「玉ねぎをいれるかどうか」「わさびをいれるかどうか」を訊かれる。
玉ねぎもわさびもたこやきにいれないけどね!????
パニックだったわたしの心は、出来上がった料理を見てさらに混乱を極めることになる。
これは一体なんだ!??????
平べったい海苔巻きのようなものにたっぷり具材が乗ってこんがり焼きあげられる“ホットスシ”。
まずは「和風たこやき」からいこう。
「グラタン風なのかな?」という甘えを打ち砕く、海苔の香りと酢飯。
プリプリのタコ、わさびマヨ、シャキシャキの玉ねぎ、たっぷりのおかかと酢飯は違和感なくひとつの料理として調和している。
決して寿司でもたこやきでもないけど、「新メニュー」としておいしくパクパク食べられる。
なんだ、ホットスシいけるじゃん?と思ったそのとき…ヤツはやってきた。
「リンゴとジャガイモ」だ。
「わたしの読解力が足りないだけで、何かの比喩なのかな?」という甘えを打ち砕く、立ち込めるリンゴの香り。ゴロゴロ乗ったリンゴ。
視界に映る米とリンゴが混じり合わなすぎてゲシュタルトが崩壊する。
とはいえ、食べてみなければわからない。わたしは異文化交流を体験しに来たんだから…!
口に入れるとまず感じるのはシャキシャキとしたリンゴの独特の食感。少ししか加熱されていないため、リンゴならではの食感が存分に味わえるのだ。
そこからたっぷりかかったチーズの塩気に、マッシュされたジャガイモで「グラタン感」が広がる。
そして海苔と酢飯。
わたしは食べるごとに笑いが止まらなかった。
食べても食べても何が起きているのか分からない。
同行者は「ムリ!!」と言って一口でやめたが、わたしはまずいとは思わなかった。
意外にまろやかなチーズとじゃがいもが吸収材になって、
りんごの甘さや酢飯を仲良くさせてくれるのである。
何を言っているか分からないでしょうが、わたしも分かりません。
笑いが止まらないまま、一皿完食してしまった。
これはもう、ぜひ日本の皆に味わってほしい。
日本人に「新しすぎる日本料理」ホットスシを体感してほしい…それが願いです。
独自の解釈でアレンジされた「日本」。
わたしは信じられない数々の料理に出会い、「これはこれでおいしい!」という可能性に
とても広い世界が見えた気がした。
「印度Q餅」咖喱/炼乳 共に40元(約150円)
貓城南洋風食:高雄市前金區自強三路221號
「抹茶那提豆腐飲」70元(約260円)
御前上茶(手作抹茶專賣店)漢神成功店:高雄市苓雅區自強三路235巷16號
「ホットスシ」75元~(約280円~)
焗米G-Me焗烤壽司:台南市中西區西門路一段703巷16號
米原千賀子
ライター兼イラストレーター。へっぽこな見た目とは裏腹にシビれる鋭いツッコミで世の中を分析する。人呼んでうさこ。常に今日の夜ごはんのことを考えている食いしん坊健康オタクな一面も。webマガジンNeoLなどで連載中。