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2月某日 東京

『上を向いて歩こう』で一斉を風靡した、九ちゃんこと昭和のスター坂本九さん。世界中の、たくさんの人々を魅了したあの優しい人柄が滲み出す朗らかな笑顔と歌声に、私も子供時代はすっかり夢中になっていたものですが、彼には2人のお嬢さんがおりまして、長女の大島花子さんは先日初めてのアルバムを出されたシンガーでもあります。

そして、その彼女の記念すべき初アルバム『柿の木坂』(今どき珍しいアナログ版)の、ジャケットのイラストを手がけたのが、なぜかこの私でありました。

CDジャケットのイラストを描いてきた漫画家さんたちは確かにたくさんいますが、思わずその花子さんの依頼を伝えてくれた友人に「え!? 私のあんな絵でアルバムのジャケット!? 何かの間違えじゃなくて!?」と問い質してしまいました。

正直、私は自分の描く漫画には、とてもではないけれどCD向きのデザイン性やセンスが醸し出せるとは思えなかったのです。「花子さん、誰かのイラストや漫画と間違えてるのかもしれない。確かめてみて」と友人に確認するも「いいえ、花子さんはマリさんの絵でお願いしたいとおっしゃってます」とのこと。

その後、彼女からレコーディングを済ませた数曲をデータで受け取り、そのお父様譲りの優しく柔らかく、聞く人をふかふかの毛布で包み込んでくれるような、聖母の声と思しき歌声にうっとりするも、同時に「この声にふさわしいジャケットイラストを私が描く…!?」とひるんでしまいました。

そしてそんな私のところへ、ある日、大島花子さんご本人が訪ねていらっしゃいました。

「鉛筆のラフのようなイラストでいいんです。力が入っていない感じので」というリクエストをされたので、それならばと、そのお人柄にも惹かれて快諾したのでした。そして、その後は花子さんとはお父様である坂本九さんの話題になりました。

今から18年程前、イタリアから2歳の子供を連れて帰国をした私は、札幌のテレビ局の番組で、イタリア料理を作って紹介したり、旅と温泉のリポーターをしていたことがありました。そのときに知り合ったプロデューサーに、もう亡くなってしまいましたが、上田さんというおじさんがいらっしゃいまして、その方は『サンデー九』という、坂本九さんが北海道の養護施設を訪ねるという主旨の番組を担当していらっしゃったのでした。

シングルマザーで奮起する私のことをいつも影から応援していた上田さんからうかがった、在りし日の坂本さんのお話を、花子さんにちらりとしたわけです。

すると花子さんは目をまん丸くさせ「待って、なんでマリさんから上ちゃんの話を聞くの!?……え、なんで!?」と驚愕されました。上田さんは坂本さん一家全員と親しくお付き合いをしていたらしく、花子さんも随分可愛がってもらったのだそうです。

予期していなかったこの接点に「もしかして、マリさんにジャケットをお願いしようと思ったのも、天国の上ちゃんが……」などと笑い合ったわけですが、私の人生にはどういうわけか、このように、どこかで誰かに出会うとそれが一つの結論に繋がる、というパターンが少なくありません。